本多夏子-6
智くんの電話番号は、智くんがクラスの男の子と電話番号を交換している時に、ワザワザ近くに行って聞き耳を立ててゲットした。
それをコッソリ、スマートフォンに登録してるあたしって、まるでストーカーじゃないの。
で、でも、だったら智くんだって…。
あたしの胸は僅かな可能性を考えてズキンとした。
智くんが、あたしのスマートフォンから掛けてきたということは、ロックを解除したということよね。
ならば…
あたしは智くんがあたしのロックを解除したように、あたしも画面に浮かぶ9つのドットの上に、大好きな人のイニシャルをなぞってみた。
なぞられたドットが緑色にラインを描き、「T」の文字が浮かんでロックはすんなり解除された。
後の躊躇は無かった。あたしは画像アプリのアイコンにタッチして中の画像を呼び出した。そして一番上に保存されている小さな画像をタッチして、それを画面一杯に拡大した。
あたしの目からまた涙が溢れてきた。
智くんのスマートフォンに浮かぶ、画質の荒い女の子の画像に向かって声を掛けた。
「おい、お前。明日はスマホの画像じゃなくて、本物の智くんに『おはよう』って言うんだぞ」
この画像には見覚えが有る。いや、有り過ぎる。
白石先生が撮った写真。あたしが智くんの画像を切り取った時に、遠慮がちに端っこに写っていたバスケ初心者の女の子のはにかんだ顔。
あたしの声が聞こえたかのように、スマートフォンの中の女の子が、嬉しそうに微笑んだように見えた。
「きゃー!」
さっきまでとは、種類の違う気恥かしさが湧きでたあたしは、悲鳴を上げて真っ赤に火照った顔を枕に押し付けた。
「夏子〜、ご飯よ〜、早く降りて来なさ〜い」
お母さんの間延びした声が階下から聞こえてきた。
母よ。もう少しだけ幸せを噛みしめさせてくれ。