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蔵の嗚咽
【近親相姦 官能小説】

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終章-1

 二つの寺を巡り、私は伯母の家に向かった。気が紛れると考えた思惑は外れて時間つぶしの苦痛しか感じなかった。
(仕方無い……行くか……)
 いったん駅に戻ってから伯母の家を目指した。忘れはしない道である。

 思えばあの時、私が最後にあの家に泊まった二十歳の年、伯母は躁鬱病だったのだ。父と母から頼まれて重い腰を上げたのだが、
「情緒が不安定なのよ。いろいろあったから……」
「落ち込んでいるみたいだから話し相手になってやってくれ」
そう言われて暗い気分になったことを憶えている。

 訪ねてみると伯母は子供の頃と変わりなく見えた。
「大人になったね、隆司ちゃん。大学生だって?」
まとわりつく伯母の言葉も視線も煩わしいだけだった。
「ちょっと前までカブトムシで遊んだり毎日川遊びしてたのにねえ」
(もう子供じゃないんだ……)
笑顔で応じながら、来たばかりだというのに明日帰ろうと思っていた。親には二、三日泊ってと言われて小遣いまで貰ってきたのだが、とても付き合いきれない感覚の違いを感じた。

「伯母さん。ぼく明日帰るから。友達と旅行に行くことになってて」
「明日?……そう。せっかく久し振りなのに。忙しいねえ」
落胆の表情を見せたが、今夜泊まるということですぐに浮き立った笑顔に変わった。
「隆司ちゃんの好きなもの、憶えているわよ。今夜作ってあげるね」
いそいそと台所に立っていった。

 その頃とどこもかしこも何も変わっていなかった。廊下の角からタエが顔を見せるような錯覚すら覚える。鈍い胸の痛みを感じた。タエの部屋は覗かなかった。

 伯母は終始饒舌だった。食事をしながら思い出話が次々と出てきて、中には私の記憶にないことも少なくなかったが、それでも適当に相槌を打って伯母の話を聞き続けた。
「隆司ちゃんが何年生の時だったかしら……」
同じ話が繰り返され、しばらくするとうんざりしてきて聞いていることさえ苦痛になった。

「伯母さん。今日歩き過ぎちゃって、疲れたんだ」
「あら、そう。あたしばかり喋っててごめんね」
にこやかで穏やかな微笑みだった。
「早めに寝ようかな」
「じゃあ、お布団敷こうね」
「自分でやるよ。昔もやってたし」
「いいわよ。遠くから来てくれたんだから。お客さんでいてね。お風呂入ってらっしゃい。敷いておくから」
伯母は私の返事も待たずに奥に姿を消した。
(一晩で限界だ……絶対明日帰る……)
一人ぼっちで可哀そうだと思いながらもべたべたとした煩わしさに耐えられなかった。

 風呂場の扉も内装も古ぼけてひどく汚かった。たぶん老朽化というだけでなく、ろくに掃除もしていないのだろう。
 ここは私の性が芽生え、目覚め、迸った所である。タエの体に衝撃を受け、『女』に初めて触れたのだ。そして夥しい精液が飛び散って青臭い春が訪れたのだった。

 洗い場に座っているとタエの白い背中が湯気の中にぼんやり浮かんでくるような気がした。肌の感触は薄れてしまったが、それを補って余りある想像力が縦横に広がった。後ろから乳房を掴んだ時、タエは息を乱していた。
 体を洗いながら私は彼女の面影を追い求めていた。
(あたしを嫁にして……)
喘ぎながら絞り出すように言った言葉が熱をもって甦った。
(本心だったのだろうか……)
いまさらながら心が騒いだ。
 結婚という形を彼女なりに考えていたのだとすれば、夢もあったのだろうか。それとも男女が絡み合うことが嫁になることと思っていたのか。

「隆司ちゃん」
ぎょっとして見回すと小窓から伯母の目が覗いていた。
「はい……」
すぐに窓が閉まり、間もなく浴室の扉が開いた。
「背中、洗ってあげる」
「いや、いい……いいよ」
伯母を見上げてその目に異常を感じた。何と表現したらいいのか、顔面の神経が引き攣ったような、それでいて無表情に近い仮面に見えた。先ほどまで思い出を辿っていた柔和な顔とはまるでちがっていた。

「もう洗ったから。出るところだったんだ」
「たまには言うこと聞きなさい」
伯母はタオルではなく、手に石鹸をつけて背中に触れてきた。
「簡単でいいよ、伯母さん」
「大きな背中になったねえ……」
洗うというより撫でまわすように手が動いていく。私は逃げ出したくてたまらなかった。
「伯母さん、ありがとう。もういいよ。明日早いから寝ないと」
伯母がいきなり前へ回ってきたので慌てて膝を閉じた。
「タエには洗ってもらってたのに……」
「え?」
「タエにおちんちんまで洗ってもらってたでしょ」
「伯母さん。子供の時だよ。今は自分で洗えるよ」
伯母は私を見据え、少し頬を弛ませた。

「いいわ。……隆司ちゃん。今夜一緒に寝てちょうだいね」
「なんで?」
「怖いの。この家、怖いのよ」
「伯母さん、自分の家でしょ」
「変な声が聞こえるの。だから一緒に寝て……」
伯母の目には説得や冗談を差し挟む余地のない一種狂気的な色があった。
「いいでしょ?お願いよ」
「わかった……いいよ……」
仕方なく承知すると、
「そう、そうして……」
ゆっくり頷いた口元が笑った。


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