追跡-6
「まさか公園に」
石橋はプルプルと首を振ったが、限りなく確信に近いと感じた。夜の公園はアベックのたまり場だ。彼らの目的はアレ以外にない。
「二時間半もしてんだぞ。もう出し尽くしただろう」
田倉がどのようにして出し尽くしたのか、あのDVDの映像を思いだしつつ、無限に膨らむ妄想に息苦しくなった。前屈みで歩く石橋の姿は滑稽であり、ほとんど危ない人であった。
公園に近づくと人の姿はもうない。前方に相当な距離を保ち二人が歩いているだけだ。周りに誰もいないので、石橋はできるだけ遠ざかっている。公園が近づくと木々が迫って来るような圧迫感がある。周辺は森閑としていた。
果たして二人の姿が公園の中に吸い込まれると石橋はダッシュした。出入り口でいったん息を整え、やおら慎重に足を踏み入れた。
恐る恐る周囲を確認するが二人の姿はない。入ったのは幾つかある出入り口のひとつで、奥へとつながる道は一本しかなかった。その道を進むしかない。
一度も来たことがないので内部の構造は分からない。真っ暗な道を歩きながら不審人物以外何者でもない石橋は「変なヤツ、いないだろうな」と怯えた顔でつぶやいていた。
最初はベンチに座っているアベックを見かけてうろたえたが、近寄ったり見たりすれば警戒するが関心なさそうに通り過ぎると、たちまち二人の世界に入り込む、ということを石橋は学習した。
「そうだ、堂々としていたほうがいいかもしれない」そう思って胸を張って歩き始めたとたん、「こらっ、あっちへいけ、この野郎!」――と怒鳴られた。ギョッとして声の方向を見ると、金髪のヤンキー風の男と女がベンチに座っていた。石橋は一目散に逃げ出した。
堂々とするのもよくないことが分かり、どうしてよいのか分からなくなった。暗闇に目が慣れてきたのはいいが、道が幾つも枝分かれしていて方向も分からなくなっていた。もう、暗闇の中を歩くことにうんざりしていた。
「帰ろう。『進藤さん』が待っているから。今日はヤツより多く、三時間かけて進藤さんと愛し合いたいと思います。ヤツには負けない」
バッグの中に向かって抱負を述べてから回れ右をした。気を抜いて歩いていると、またしても例の金髪の男と女の前を通りかかってしまった。金髪の男はベンチの上で女を抱いていた。
「さっきからなにしてんだ、テメエ! 覗いてんか、こらぁ! ぶっ殺すぞ」
ひざの上に女を抱いたまま、足を伸ばして蹴りを入れながら凄みを利かせた。女は気怠そうに顔をねじる。制服を着ているので女子高生かもしれない。
「ち、違いますから、僕は他に用があって……」
彼らを映したい、と一瞬頭をよぎったが、石橋はブンブンと手を振り大慌てで走り去った。
「そうか! 俺は覗き魔だと思われているんだ」
田倉たちを覗き見しようとしている――しかもビデオに撮ろうとしている――わけだが、遅まきながらハタと気付いたのであった。
「ここにいるのは、かなりまずいのでは」――と思ったそのとき、横前方に白いものがチラッと目に入った。見覚えのある色だった。声をあげてはいけないので、慌てて口を押え林の中に身を潜めた。
音をたてないように慎重に回り込んでいく。完全に覗き魔の行動パターンで……。
果たせるかな太い幹の向こう側にいるのは田倉と奈津子だった。石橋が見たのは奈津子のスカートだ。ホテルの前でも暗闇でも、ずっと奈津子だけを目で追っていたのでよく覚えている。田倉は木を背にして奈津子を抱擁していた。
石橋は立ち眩みを覚えた。
田倉は両手でスカートの上から奈津子の腰――いや尻――をつかんでいた。奈津子はつま先立ちになり、田倉に身を預けている。
石橋のあごが意志に反して、壊れたおもちゃのようにカクカクと動いていた。