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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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追跡-5

 田倉の入ったホテルに入っていく奈津子の姿を見てスイッチが切り替わった。帰るわけにはいかない。時間は十分あるので、とりあえずコンビニを探し腹ごしらえをすることにした。こんなときの石橋は大変辛抱強い。パンをかじりながら人が通るとケータイを耳に当て、缶コーヒーを啜って空になったことを大げさに表現して捨てる場所を探して見せる。一心不乱にバッグの中の物を探すふりをしたり、電柱から電柱へと渡り歩き、待つこと二時間半。とうとう二人がホテルから出て来るまで待ったのである。
 二人の姿を確認したときは石橋は感動した。
 田倉のあとに数歩遅れて歩く奈津子を見て「当たり前だろう。進藤さんは奥ゆかしいんだ」――と、奥ゆかしい人妻が今まで夫以外の男と二人っきりで、二時間以上も密室にいたことはさておき、満足そうに頷いている。
 駅の方向に向かって歩き出した二人をそっと追い始めた。灯りの少ない場所や細めの路地を選んで歩いている。
 石橋はバッグの中に手を入れてビデオカメラの電源を入れた。ウィーンとかすかに音が聞こえた。待っている間に赤外線投光器はすでに取付けてある。実はビデオカメラをバッグにしまったまま撮影できるよう、あらかじめバッグに穴を開けてあるのだ。日中はちょっと不安だけれど今は夜なので大丈夫。普段はマジックテープを縫い付けてあるのでピタリと閉じている。一人暮らしが長いので裁縫はお手のものだ。
 歩いているところを撮ってもどうしようもないが、必死で演技をこなしながら長い時間待った証のようなものであった。
「背の高さがあんなに違うんだ」
「二時間半、それだけあれば、どんなことでもできるな」
「ソープランドでも五十分もあればかなりのことができるから」
「ヤツは進藤さんにエッチなポーズをさせたのかな」
「またあんな顔を田倉に見せたのかな」
「やっぱりヤツは激しいのですか?」
「進藤さん、壊れていませんか?」
「ああっ、そんなのいやだっ」
「ヤツのあれを口でしたりするのですか?」
「くそ、くそっ」
「田倉め、ちゃんとコンドーム使っているのだろうな」
「進藤さんにナマはだめだぞナマは。人妻なんだから」
「もしかしてピルなんか?……ああ、それはすごくいやっ」
「今日は何回されたのですか?」
「疲れたときは断ってもいいのですよ」
「とっても恐ろしいヤツですから」
「田倉は今まで進藤さんと何回ファッキングを……」
「ああ、羨ましすぎて変になりそう」
「悔しいけれど何だか二人はお似合い」
「佐伯よりも」
 等々、音声として全て録音されている。その後も興奮冷めやらぬ石橋の独り言は続いた。
 前方では田倉が奈津子の肩を抱き寄せていた。うつむいている奈津子の歩調に合わせるよう、ゆっくりと歩いている。二人は無言で歩いている――ように見える。見ようによっては夫婦に見えなくもないが、雰囲気から恋人か不倫の間柄といったところだ。実際そのとおりではあるが、会話の必要もない間柄であることは間違いない。
 この通りを抜けて大通りを越えれば駅だ。二人は大通りを出る手前で立ち止まった。田倉が足を止めたので奈津子もつられて止まったようだ。うつむき加減だった奈津子が「どうしたの?」といったような感じで田倉を見上げる。
 ――ああ、なんて可愛い仕草。
 戸惑いを見せる奈津子を無視するように、肩を抱いたままチラッと周りを気にしてから、駅とは違う方向へ向かった。奈津子はためらうように身もだえるが、田倉にせかされ甘んじて歩いているように見えた。強引な感じがしたので石橋はムッとした。
 警戒するように田倉が後ろを振り向くが、それを見越した対策はバッチリである。今までさんざん振り回された石橋は、尾行の極意のようなものを習得していたのだ。
 前方を見ると闇のような地帯が広がっている。このまま真っ直ぐ歩いていくとその公園に突きあたる。広大な敷地を有する公園は鬱蒼と茂った木で覆われていた。石橋はバッグが激しく揺れないよう気を遣いながらあとを追った。


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