投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

不貞の代償の最初へ 不貞の代償 31 不貞の代償 33 不貞の代償の最後へ

威圧-6

「ところで……」
 いい加減うんざりしていた田倉は身を乗り出した。岩井がのらりくらりと本題を避けていることは分かっていたが、切り出さざるを得ない。目の前の食べ物をおおよそ平らげた岩井は、ビールを差し出す沼田の顔を眠そうな目で見ている。沼田は目を三角にして目配せをした。田倉はそれを無視した。
「秘書の方には簡単にご説明いたしました例の件でございますが……」
 詳細を説明した。
「なるほど……」
「いったんは整地することになりますが、老若男女が安心して住める活気のある、緑溢れる街づくりを目指したいと考えております」
「社運を賭した巨大プロジェクトとなります」
 しぶしぶといった感じで沼田が付け加えた。
 聞いている間は目を閉じていたが、老人にしては張りのある瞼をスッと開いた。
「整地、ですか。ふん、うまいことを言う」
 田倉は冷や汗をかいた。
「自然の緑を破壊して、その上にどこぞから引っこ抜いてきた木を植えるわけですな。それも大量に」
 うなじ辺りが汗ばむのが分った。
「あれを破壊するとなると大事でしょう。あなた方がおっしゃるエコ何とやらに矛盾しているが」
 破壊という言葉を何度も使う。田倉は困惑した。
「ん? 田倉さん、あなたの本心を拝聴したいものですな」
「恐れ入ります」
 田倉は観念した。だが、この場で本心を吐露することは、現在率先して行っている業務と文字通り矛盾する。語らずとも田倉の本心を理解したに違いない。
「決してすべてを壊すわけではなく、我々としてはできるだけ緑や小動物は残し……」
「難しいですな」
 沼田は力説するが、遮断された。反論すらせず不甲斐ないと思ったのか、険しい表情で田倉をみて続ける。
「さ、さようでございますか、でもそこを何とか先生のお力添え……」
「社運のことも承知した」
 岩井の声に威圧された。
「この話はひとまず棚にあげるしかないのう」
 沼田はこれ以上何もいえず黙りこくった。
「さて、飲み直しますか」
 岩井がパンと手をたたくと、たちまちスッと引き戸が開き、数人を率いた女将が入ってきた。飲み食いした残骸をすっかり片付け、今度は熱燗と新しい食べ物をあっという間に並べた。
「女将の柔肌で暖めたような、この燗がまた旨い。のう女将」
「どうぞごゆっくり」
 スッと手を伸ばす岩井を軽くあしらって女将は出て行った。岩井は困った顔で沼田を見た。
「さっきの食いもんは全部冷めてしまったからのう。田倉さん、遠慮なく食ってください」
「恐れ入ります」
 田倉は姿勢を正した。
「沼田さんも、遠慮せずに」
 銚子をつまんだ岩井にペコペコと頭を下げる。
「食おうが食うまいが、どうこうなるものではありませんからのう」
 田倉はチラッと横を見た。沼田は能面のような顔でお猪口をすすっている。かしこまった面持ちだが、ムッとしているのかもしれない。
 帰路、すっかり酔った沼田が、岩井のことをこき下ろしたのは言うまでもない。さらに田倉の押しのさなを毒突いた。田倉は何の成果もあげられず疲労のみが残った。


不貞の代償の最初へ 不貞の代償 31 不貞の代償 33 不貞の代償の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前