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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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不穏-1

 石橋は新設の企画について、耐震と地質調査の件で技師を交えて佐伯と打ち合わせをする必要があった。打ち合わせはスムーズに進み予定より早く終わった。技師は次の打ち合わせがあるらしく、あいさつもそこそこに会議室から出て行った。石橋はテーブルの上にある飲みかけのペットボトルとコップを、テキパキとお盆にのせて片付け始めた。
「あ、それ僕が持っていくから」
 のんびりと書類を整理していた佐伯はあたふたと立ち上がった。昨夜も例のビデオを見て身もだえしたわけだが、その関係者を目の前にして石橋は複雑な気分だった。
「そう、じゃあ頼むわ」
 どうしてもと言う佐伯にお盆を手渡した。それを危なっかしそうに持つ姿にひやひやした。
『佐伯君がトロいから進藤さんがあんな大変なことに』
 思わず言いそうになり、慌てて口を押さえた。
「いったい俺はどうすりゃいいんだ」
 ため息混じりでつぶやいていた。
 満足そうな顔でキッチンから出てきた佐伯と目が合い、石橋はそっぽを向いた。
「この前の送別会、知らないうちに先に帰っちゃったね」
 十センチ以上の背丈差がある石橋を見上げる。
「え? ああ……ちょっと用事があって」
 話し相手がいなくて、好みの女子社員を眺めていたら、欲情して女を買いたくなった、などと口が裂けてもいえない。
「そうだったんだ。君を捜したんだけれど、どこにもいなかったからさ」
「ん? 何か用事があった?」
 背を向けて資料をそろえる。
「いやいや、そうではないけれど、ちょっと一杯傾けようと思ってね」
 唇がニュッと尖ったのは佐伯には見られていない。振り向いて人懐っこそうな佐伯の顔をチラッと見た。
「それはそうと、君は地形図や測量のことなど、よく知ってるね。僕なんかぜんぜんだめだからさ」
「いや、それほどでもないよ。いろんな支社をフラフラしているとき、なんだかんだで必要だったから。まあ、ちょっと興味もあったし。少しかじった程度だけど」
「へー、そうだったんだ、さすがだよ。本当に感心した」
 まんざらではない石橋は鼻の下をこすった。こう見えても、なかなかの勉強家なのである。
 二人は肩を並べてエレベーターに乗り込んだ。
「じゃ、僕はちょっと席に寄って帰るから」
 デスクのあるフロアーで降りる佐伯の背に向かって声をかけようとしたが、ドヤドヤと数人が乗り込んできたので言葉を呑み込んだ。
 一階で下りると目の前に田倉がいた。「ひえっ」と悲鳴をあげる石橋に向かって片手を上げ、「よぉ」――と声をかけて田倉はエレベーターに乗り込んだ。
 石橋は閉まったドアの上方を睨み付けていた。通りすがる人たちの冷めたい一瞥は、もはや眼中にない。
「あの帰りか? 今まで会ってたのか? ほんとか? 今日もか? やりすぎではないか?」
 エレベーターを乗るために集まってきた人たちが、ぶつぶ言っている石橋を避けるように空間を作っていることも眼中にない。最後に乗った気の弱そうな若い男性社員が、エレベーターの外にいる石橋と対峙する形となった。男性社員は『閉』のボタンをパチパチと押し続けていた。

 開いたドアから降りてきた佐伯とバッタリ会った。
「あれ? どうしたの? 忘れ物?」
「いや、今降りてきたところだけど」
 我に返った石橋はそう言った。
「え? そうなのかい。乗ってたっけなぁ」
 佐伯は目を丸くしている。
「うん、乗ってた。ところで田倉部長帰ってきただろう?」
「いや知らないけど。そうなんだ、戻ってこられたんだ。いないと思って挨拶しなかったなぁ。部長に何か用事でも?」
「あ、いや、何でもないけどね」
 何だか話がかみ合わない。
「じゃ、お疲れさま」と、佐伯は手をあげた。
「あ、ちょっと待って。これから少し飲まないか?」
 ちょっと照れくさかったけど誘ってみた。
 佐伯は驚いた顔で「そうだね……」と、腕時計を見て「じゃあ、少しだけ」と言って笑顔を見せた。


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