冥界の遁走曲〜番外編〜-3
その瞬間に生まれたのは紅の光。
そしてユラユラと揺れている。
「ほう…それが噂に名高い三神の炎か…」
ファングは淡々と言っているが体は恐怖に縛られている。
三神の炎。
そもそも死神とは冥界の中でも最高の力を持っていると称される機関だ。
死の世界の神。
その名は伊達ではない。
四人それぞれが戦闘に特化した能力を持っているのだ。
一神家は代々風を、
二神家は代々水を、
三神家は代々炎を、
四神家は代々雷を。
そんな彼らをいつしか人は死神という形で総称した。
これらの能力は全て嫡子に引き継がれている。
それは一子相伝の遺伝子なのだ。
したがって次男や次女には”能力”は現れないのだ。
「ここからは三神家嫡女の楓が相手するわ」
ふふ、と彼女は妖艶な笑みを浮かべた。
◎
…おいおい、能力使うのかよ!?
龍也は少々困った。
楓の炎は強力で敵を倒して戒めるという点ではとても役に立つ。
龍也自身を巻き込みさえしなければ。
自分の身にも何度飛び火が来たことか、龍也には数えられないほどだ。
「おい、兄さん助けに行かなくていいのかよ?」
盾と競り合いながら龍也が提案するような口調で言った。
「今はお前の相手に忙しいからな」
「あ、そ」
興味なさそうに龍也はつぶやいた。
「兄者は負けられない理由を持っている。
そして俺も。アキレス様もな。だから俺達は負けない!」
叫んで盾を引き戻した。
さっきと同じように龍也の体が前にのめった。
フォートレスは側面に移動し、盾で龍也を殴りつけた。
龍也はうめいて剣を地面に突き刺して倒れようとする自分の体を支えた。
だがフォートレスの追撃はやまない。
盾で再び龍也の頭を殴りつけた。
龍也はますます足取り不安定になる。
そして頭から血が流れ出す。
…っと、これはちっとマズいな…
剣を地面から抜き、構えるが、未だにフラフラだ。
脳しんとうを起こしている、と龍也もフォートレスも判断する。
…ここで終わらせてやる!
だが龍也も殴られたままでは終わらない。
…こんな所で負けるわけにはいかねえな!
「アキレスの暴走の理由も知ってねえんだからなぁ!」
剣で上から迫る盾を受け止めた。
そして刃を盾に滑らせるようにしてフォートレスの懐に潜り込む。
そして腹に掌底をたたき込んだ。
フォートレスの体は龍也の力によって盾ごと浮かんで吹っ飛ぶ。
「楓!」
集合の声をかけた楓は腕全体に炎を駆けめぐらせている。
見ている者からすれば焼けるように熱いように感じるはずなのだが、当の本人は涼しい顔をしている。
「行くわよ!」
楓は地面を蹴る。
それはファングも同じだ。
二人は同時にお互いの武器を振りかざした。
互いの武器がぶつかり合う。
その瞬間、楓の武器はさらに燃え上がって勢いを増した。
「くらいなさい!」
ファングはフォートレスが倒れている所にまで吹っ飛んでいった。
二人は今度こそ激突して地面に倒れ込んだ。
…勝ったか。
龍也は一つため息をつく。
楓と龍也は呼び合うわけでもなく寄り合う。
「さ、龍也。
急ぎましょ」
「ああ」
二人はバイクに向かって歩き出す。