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冥界の遁走曲
【ファンタジー その他小説】

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冥界の遁走曲〜番外編〜-4

次はアキレスだと、前に戦っていた二人には見向きもしない。
「ま、待て…」
ボロボロになったファング。
ヨロヨロのフォートレスが同時に立ち上がった。
「まだ俺達は負けていない…!
勝負はまだ続いている…」
「そうか」
龍也はしまっていた威太刀をもう一度抜く。
「ならお前達を倒れるまで倒してやるだけだ!」
「望む所だ…!」
ファングは青竜刀を、フォートレスは盾をもう一度構える。
「アキレス様の為にも…負けるわけには…
それでも我らは死ねない…。
勝利も命も…アキレス様に捧げてみせる!」
何故ならガヴァメントに侵攻する前にアキレスに言われたからだ。
『お前達だけは…死ぬな』
それは普段のような命令ではなくアキレスの心からの懇願だった。
自分達兄弟はそれを守らないといけない。
だからこそ戦う。
そして勝つ、生きるのだ。
兄弟が闘争心を剥き出しにしている一方で龍也は剣を収めた。
兄弟は疑問のまなざしでそれを見る。
「何のつもりだ?」
問いかけるのはファング。
「なぁ、お前ら」
不意に龍也が尋ねる。
「聞かせてくれ。
アキレスに何があったのかを」
もはや普段のちゃらけた表情ではなくそこにあるのは戒の特攻隊長としての、そしてアキレスとの縁の深かった者としての顔。
戦う者にはそれなりの動機がある。
だからこそファングとフォートレスは口を少し開く。
刹那の体の震えと共に、
「いいだろう…話してやろう。
四神とアキレス様の間に何があったのかを」
二人はゆっくりと、そして怒りと恐怖に震えながらアキレスに何があったのかを話した。



話を聞いた龍也と楓はしばらく硬直していた。
何も言えなかった。
アキレスの過去が残酷すぎた。
アキレスは四神によって何もかもを与えられた存在。
そのくらいは龍也も楓も分かっていた。
戒にいた時のアキレスは四神を心の底から尊敬し、崇拝し、慕っていた。
彼のプライベートの話を聞くときに四神が出てこなかった事はないくらいだ。
彼の人生はまさに四神によって与えられたものと言っても過言ではなかった。
だがそれは四神本人によって一瞬で奪われてしまった。
彼の心の傷は計り知れないものがあることは龍也と楓には十分に伝わっている。
そして同時に死神を殺すという目的も告げられた。
「そっか…」
龍也は誰にも聞こえない声でつぶやいた。
「お前達にも分かるだろう!?
アキレス様の気持ちが!」
話していたファングとフォートレスにも涙が浮かび上がっている。
「だから我らはお前達にアキレス様の邪魔をして欲しくはない!
分かってくれ!!」
もはやそれは命令ではなかった。
ファングとフォートレスの頼み。
二人の訴えなのだ。
楓は焦燥に駆られていた。
もしここでアキレスを追わなければ自分の母親が殺される。
だが追えばアキレスの悲しみを無視した非情な行為となる。


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