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栗花晩景
【その他 官能小説】

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風花-9

「全部洗って」
立ったまま湯をかけてから顔を赤らめ、ひと呼吸置いて下半身を突き出した。
「オマ○コも……」
(恵子……)
初めて聞く言葉だ。
「いやらしくなっちゃう……」
 私は隅々まで手と指を這わせていった。
(脂がのった……)と思う。
 そっと撫でるように、また揉み込むように、洗うというより愛撫ある。恵子もそのつもりであったろう。
「ああ……」
乱れた息を洩らしながら高まりを蓄積するかのように耐えている。

「うう……感じちゃう……」
何度か膝が折れそうになるのを私にすがって堪えてはなおもせがむようにボディを躍らせる。だが、指が股間の襞をくぐり、会陰から後ろを往復するうちに、
「ああ、立ってられない……」
崩れるように体を預けてきた。

「今度はあたしが洗ってあげる……」
言って、抱きついてきた。
 密着した体。上下にゆっくり動き始め、泡をなすりつけ、後ろ手も背中から腰回りを摩ってくる。
「うう……」
挟まれて揉まれる一物がのたうちまわる。屈伸をして腹をこすりつけてくる。
 恵子は歯を食いしばり、まるで苦痛に耐えているかのようだ。
(苦痛なはずはない)
しかし眉間を寄せた形相は陶酔の境地を目指しているとはとても思えない。
(気持ちがいい……)
だが、彼女の動きはどこかおかしい。まるでトレーニングのように全身をぶつけてくる。
(恵子……)

 息を弾ませて座り込んだのは疲れたからか。今度はペニスを握ってきて力任せに扱き始めた。
「もう、出よう」
動きを制すると見上げた目が虚ろに見えた。

 体を拭き合うのも愛撫である。自然と抱き合い、唇を合わせる。
「このまま運んで……」
鼻にかかった声で腕を絡めてくる。
「お姫様抱っこ……」
ずしりとした重量感と柔肌の肉感。むっちりと熱い体。
「重い?」
「軽くはない」
「ふふ……」

 広い部屋を横切って奥の寝室へ行くまで縁側の窓から庭が見える。
「誰かいない?」
「いないよ」
全裸である。窓のそばまで行った。
「見られちゃう」
「向こうの離れから見えるかな」
「いやよ。早くお布団」

 ふかふかの布団に倒れ込んで湯の温もりを確かめるようにそのまま求め合った。
「ちょっと入れたい……」
恵子が上になった。
「もうすぐ食事だぞ」
「だから、ちょっと」
腰が沈んで滑らかに納まった。恵子は鼻の孔を膨らませて息をつき、ぐっと膣を締めたあと揺れる乳房を重ねてきた。

「あたしって、大胆?」
「刺激的でいいよ」
顔を近づけてきたのでキスをしてくるのかと思ったら、息がかかるほどのところで私をじっと見下ろした。
「ね……」と呼びかけ、
「あなた、一人でしてたでしょ」
「え?……」
「この子……」
手を後ろに伸ばして袋を揉んだ。苦笑するしかなかった。
「それは、妊娠してた時に……」
「うそよ。もっとあとになっても。知ってるんだから」
頬を膨らませておどけて見せているが、目は笑っていない。
「そのほうがいいの?」
「深い意味はないよ。男の生理だよ」
「あたしがそばに寝てるのに……」
「疲れてる時もあるだろう」
「そうだけど……。あたしに魅力がないんだと思った」
「ばかだな。だったらこうなるか?」
恵子の腰を引きつけて腰を突き上げた。
「あう!」
 その時、渡り廊下に足音が聞こえて私たちは跳ね起きた。
「浴衣、浴衣」
下着を着けてる時間はない。慌てて羽織って帯を巻きつけた。

 料理を並べ終えて、仲居が部屋を出ると、恵子は口を押さえて笑いを堪えた。そして胸をはだけて乳房を見せた。私が立ち上がって前を開くとたまらず笑いだした。

 その夜、恵子は全速力で挑んできた。解放感からくる昂ぶりとして理解するにはあまりに激しく、ひたすら突き進み、ぶつかってきた。
 一切受け身にならなかった。私に跨ると握って吸い立て、結合すると跳ねるように動き、腰をひねり、自ら貫いた。
 一心不乱であった。重なって舌を絡め、熱い息を吹きかけ、起き上がるとまた運動した。赤い顔は苦悶に満ちて歪む。上体を反らせすぎて抜けるとすぐにねじ込み、わっさわっさと飛び跳ねた。
 顎から汗が滴って私の胸にふりかかる。私がその強烈な攻撃に耐えたのは鬼気迫る彼女の迸る『何か』に打たれたからだった。
(なぜこれほど……)
夫に自慰をさせた自責の念なのか。制御が利かないほど燃え立ったのか。恵子は動力と化して唸り続けた。

「イク……」
限界を告げると恵子は低い声で口走って倒れてきた。
「あたしたち結婚したのよ!あなた!」
歓喜の声というより悲痛な叫びに聞こえた。

(恵子……)
体をひしと抱きしめた。汗びっしょりである。疲労困憊なのか喘ぐばかりだ。乱れた呼吸で背中は大きく動いているが、痙攣はない。
 抜けそうになったので抱き寄せつつ繋がったまま反転して上になった。快感の余韻がたなびいて薄れていく。
「赤ちゃん、出来るといいな」
恵子は微笑みで応じて目を閉じた。

 気のせいだったかもしれない。真夜中のこと、恵子のすすり泣きが聞こえたように思った。


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