投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

栗花晩景
【その他 官能小説】

栗花晩景の最初へ 栗花晩景 18 栗花晩景 20 栗花晩景の最後へ

芽吹き編(2)-1

 古賀とは次第に話す機会が少なくなっていった。とくにわだかまりがあったわけではなく、クラスが違うことと下校時間が異なるので自然とそうなっていったのである。
 切っ掛けは忘れたが、二学期になって親しくなったのは小暮である。大柄な体に似ず性格は温厚な男であった。
 ある日の帰り道、小暮は私に体をぶつけるように体を寄せてきて、
「大村真理子って知ってる?」
突然だったので彼を見上げながら無言で頷くと、
「俺、お前だけに言うけど、ラブレター出したんだ」
少し俯いて言うとそのまま歩き続けた。前屈みの体はちょっと小さく見える。どうやら恥ずかしくてそんな行動をとったようだ。

「へえ、いつ出したの?」
「十日くらい前。……やめればよかったかな……」
「なんで?だめだったのか?」
「わからない。返事がこないもんな」
「じゃ、まだわからないよ。考えてるんだよ」
「そうかな……」
小暮は足を止めるとすがるような目を向けた。不安に耐えられなくなって打ち明けたのかもしれない。生真面目な男なのだ。

「大村とは同じ中学なんだ」
「本当か?」
「クラスはちがうけど」
「いいな。一緒だったのか……」
まるで私が真理子と親しくしていたかのような羨望を含んだ言い方である。
「話したこともないんだぞ」
私の言葉が耳に入らなかったのか、小暮は何度も溜息をついて歩き出した。

 中学の時、クラスの女子に仄かな恋心を抱いたことを思い出していた。三原恵子は今でも好きだ。
 誰かに切ない想いを寄せるのはごく自然なことである。無論、横溢する性的好奇心とともにそれは芽生えるものだが、それだからこそ思春期の健全な心身でもある。
 小暮の想いを聞きながら、私は妙に醒めた気持ちの自分に気づいた。そう思ったのは、私に彼のような素直な心情が希薄になっているように思われたからである。
 そこにはミチとクミとのあの体験が関わっている気がした。未熟な私にとって衝撃的なあの出来事が、本来段階的に育むべき異性への純粋な気持ちを遮断して一気に『壁』を突き破ってしまった気がしてならない。
 その結果、想いを寄せるより、まず肉体が頭を支配してしまうのである。いとおしみ、心をときめかせる感情の紆余曲折が欠けている。最後の一線が未経験なだけに思考回路にとっては厄介であった。
 痩せた女の子を見るとクミに、肉付きのいい子にはミチが重なる。太ももや乳房、腰から下の部分。誰であれ、あの時の感触が想像を伴って拡がっていく。特定の相手に好意を抱くこととはどこか乖離した興味が満ち溢れて、視覚で捉えた女は誰であろうと裸の女として認識されてしまうのである。
 小暮だってセックスへの願望はあるはずで、彼がペニスを握る時には大村真理子を思い浮かべていることだろう。
(羨ましい……)
私には頭の中を占める相手がいない。小暮の悩みと私の悶々とするところは異なっていたように思う。


 九月になって、担任から文化祭の実行委員をやるように言われた。元々は各文化部から委員を出していたらしいが、それぞれ準備で忙しいのと、予算や待遇面でもめ事が絶えず、公平を期すために数年前からどこの部にも所属していない生徒で運営するようになったのだという。
 なぜ私が指名されたのか分からないが断る理由も思いつかなかった。


栗花晩景の最初へ 栗花晩景 18 栗花晩景 20 栗花晩景の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前