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栗花晩景
【その他 官能小説】

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芽吹き編(1)-5

 月曜日の朝、教室に行くと中本が険しい顔でやってきた。
「古賀ってやつは何組だっけ」
「どうかしたのか?」
「ヤツは拙いことをやってくれたな」
眉間に皺を寄せて睨むように目を細めた。
「何をしたんだ?」
「クミのスカートを汚したんだ」
「ああ……」と頷き、
「あの子から聞いた。気にしてたな」
「そうだろう。あれ、高いらしいんだ。ダチが怒ってよ。落とし前つけるって言ってるんだがな」
「落し前って……」
「まあ、普通なら焼き入れられるだろうな」
中本の目は脅すように光り、
「ダチも筋者の端くれだからな。だがよ、弁償ってことで治めてくれるように話してやろうかと思ってるんだ」
「そうしてやってくれよ」
古賀のためを考えたのはもちろんだったが、難癖をつけられて私に災禍が降りかかってくるのを恐れる気持ちもあった。失敗は何もなかったはずだが、何を言われるかわからない。クミに突っ込んだことを言わなくてよかったと思った。
「じゃあ、古賀に話してくる」
中本は体を左右に揺らしながら教室を出て行った。

 あとで古賀に訊くと、スカート代として二万円を支払うことになったという。私は驚きとともに恐怖を覚えた。これは恐喝である。常識的にはクリーニング代で済むものだろうし、弁償するにしても二万円もするはずはない。だが、そんな話が通じる相手ではなさそうで、
「厭なら話をつけに来るっていうんだ」
しかし二万円は大変な金額である。
「でも、払うしかないだろう……」
古賀の表情は暗澹たるものだった。金のこともさることながら、このことで射精の事実を私に知られてしまった情けない思いの方が辛かったかもしれない。
「先生に相談してみようか」
「だめだよ。あとで何されるかわからないよ。それに俺たちが何したかばれるじゃないか」
それはわかっている。経緯を訊かれるに決まっている。
「だけど、二万だぞ」
私だったら工面しようのない大金である。
「お年玉貯めたのがあるから……」
古賀は諦め顔で力なく笑ってみせたが、割り切れない思いだったにちがいない。実害を受けなかったとはいえ、私も後味の悪い思いを抱いた。

 中本は二万円については私に何も言わなかった。ただ、話をつけてきたとだけ言った。礼を言うと、今度は『本番』を一万円で世話してやると持ちかけてきた。私は金がないと断った。金もなかったが、もっととんでもないことに巻き込まれてはたまらない。

 夜、目を閉じるとミチとクミが脳裏に現れる、あの時の感触が甦り、そっと指先を嗅いでみる。するはずのない臭いがした。
 夢想の中、指はミチに入り、クミに替わり、時として幼い佳代子の陰部にめり込んだ。初めて夢精を経験したのはこの頃である。
 白く美しい女が全裸で横たわっている。美しいはずなのになぜか顔がない。私は女と一つになろうとしている。
 女の股を開く。抵抗なく開いた股間には何もない。陰毛も裂け目もない。透けるような肌があるだけである。それでも私は突き立てる。何度も何度も『その辺り』に。
 やがて熱い感覚が下腹に生まれ、急激に膨らんだ。狂おしいほどの快感に見舞われて、目が覚めた。まだ放出が続いていた。何が起きたのか、少しして理解した。快感の波に身を委ね、やさしいけだるさを感じながら、いつしかまた眠りに落ちていった。

 中本からはそれからも誘いがあったがその度に断った。
「そんな金ないよ」
表向きはいつも金だったが、何か因縁をつけられそうで厭だった。性質の悪い連中は何をしてくるかわからない。もし何万円も要求されたらとても払えない。それに中本という男がどうにも胡散臭く思われてならなかった。日が経つにつれ、古賀の一件は中本が個人的に仕組んだものではないかと思えてきたのである。根拠はなかったが、ずる賢そうな目つきを見ているとそんな気がした。女の肉体に対する欲求は膨らみ続けていたが、彼にかかわる危険度を考えるととても踏み込めなかった。


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