投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

栗花晩景
【その他 官能小説】

栗花晩景の最初へ 栗花晩景 25 栗花晩景 27 栗花晩景の最後へ

芽吹き編(2)-8

 (誰か来る……)
細谷はストーブを消そうと起き上がりかけたが、声が近くなったのでそのまま息を潜めた。
 何人かが扉の前まで来た時、私と細谷は互いを引きつけるように抱き合った。
ドアノブが回された。
「やっぱりいないよ」と一人が言った。
「こんな時間じゃな。明日の朝だな」
委員会に何か用事があったようだ。

 彼らが去ってからも私たちは抱き合ったままじっと動かなかった。私の頬は栄子の胸に触れている。息遣いは二人ともやや乱れている。体も火照っている。見上げると栄子も私を見ていた。そっと伸び上がって口を寄せる。そのまま重なった。
 射精の切迫感は治まっていたがペニスは硬いままである。ふたたび手を股間に伸ばす。
「やめようね……」
細谷が囁いて、
「ちょっとだけ、いい?」
栄子はやわらかく微笑んだ。

 割れ目に入った指は自分でも不思議なくらいやさしく動いた。繊細な秘所をいとおしむようにそっと触れ、感触に酔いしれた。内部の肉はすべてとろけるように柔らかい。
 やがて彼女の呼吸が乱れ、
「もう、やめよう……ね……おねがい……」
なぜか彼女を姉のように感じた。
 指を抜き、彼女に寄り添い、
「こうしてて、いいですか?」
彼女は黙って顎を引き、
「そうしようね……」
もう一度唇を合わせた。かすかに牛乳のにおいがした。

 その夜、私は細谷と抱き合ったままいつのまにか眠ってしまい、射精することなく朝を迎えた。いま思い出しても信じられない思いである。勃起した昂揚状態で女と密着していたのである。しかも下着一枚の尻を何度も摩った記憶がある。放出へ向かってまっしぐらに暴走するだけのその頃の性欲を考えるとあの一夜は夢のようにも思えてくる。

 目覚めるとシーツにくるまっていた。細谷は机に向って何か書いている。
起き上がると優しい微笑みが注がれた。
「おはよう」
「おはようございます」
「六時過ぎてるから」
早く起きましょう、とその目が語りかけていた。ふくよかな笑顔はいつもよりなお温かで慈愛さえ伝わってくるようだ。指には確かな彼女のにおいが残っていた。

 あちこちから物音が聞こえてくる。文化祭の一日目が始まったのだった。
 二日間の文化祭は滞りなく進み、最終日にキャンプファイヤーを囲んでフォークダンスが打ち上げとなった。苦手な私は輪の中に入らず、大柄な細谷が意外にも軽やかに踊る姿を眺めていた。

 その日以後、彼女と話をする機会はなかった。卒業が近づいたある日、廊下で偶然出会った時の会話が最後である。彼女は、来年も委員をやるようにと言った。
「きっと見に来るから、頑張って」
そう言って私の肩を叩いた。しかし私は委員にはならなかった。そして彼女が文化祭に来ることもなかった。


栗花晩景の最初へ 栗花晩景 25 栗花晩景 27 栗花晩景の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前