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栗花晩景
【その他 官能小説】

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雨模様(1)-1

 新学期になって程なくして、古賀と小暮が殴り合いの喧嘩をして二人とも一週間の停学になった。そのことを知ったのは処分から数日経ってからのことだ。
 温厚な二人がなぜ、と初めは訝ったが、大村真理子に関わる感情が発端だとすると、互いに思い入れが強いだけにあり得ないことではない。詳しい事情はわからないが、リード紛失事件以来、特に小暮には鬱積したものがあったようだ。

 古賀の家を訪ねたのは高校に入って初めてのことだ。
私の顔を見ると、古賀は曇った表情を見せて俯いた。停学中なのだから無理もない。唇が少し腫れている。

 母親が出てきて、
「まったく、何をやってるんだか」
息子の行状に嘆息を洩らし、それは私に対する言い訳でもあった。
「公園に行こう」
古賀は私を促すと、母親を無視して乱暴に玄関を閉めた。

 古賀の足取りは重く、私は時々立ち止まらなくてはならなかった。
 石碑の前に来たところで、私は裏へ回って顔を覗かせた。
「いまでもアベック、来るのかな」
古賀は苦笑した。
「いや、たまに練習に来るけど、見かけないな」
「卒業したのかもな」
私たちはぶらぶらと歩き回った。当たり障りのない話題を投げかけても会話は続かない。しまいには二人とも黙りこんでしまった。

 喧嘩の原因を聞くために来たのではなかった。停学となれば落ち込んでいるだろうと気になっていたのだ。
 古賀は沈黙の後、話し始めた。
「お前だから言うけど、実は俺、大村のリード、盗ったんだ……」
「無くなったっていうのは聞いた。小暮から」
「そうか。……そしたらあいつがきて、犯人はお前だろうって……。そして、一枚くれたら黙っててやるって言うんだ」
小暮は古賀を責めるのではなくそんな要求をしていた。
「俺は知らないってとぼけたんだけど、あいつ、しつこくてさ。自分も大村が好きなんだって告白して、お互いに彼女が好きなんだからって」
二人だけでファンクラブを作ろうと言いだした。なおも否定すると、小暮は、俺も白状するからと、下穿きに射精したことを話したという。
 私はひやりとした。私も一緒にいた。だけでなく、率先して行ったのは私なのだ。もしや、と古賀の目をうかがうとどうやら私のことは伝わっていないようだ。

「それで、俺もついつられて言っちゃったんだ」
小暮の誘導に引き込まれ、結果、古賀は二枚のリードを渡した。
 妙なきっかけだったが、自らの秘密をさらけ出したことで連帯感が生まれ、二人の間はしばらくうまくいっていた。それがひょんなことからこじれてしまった。

 共通のマドンナのあれこれで盛り上がっていた時、それは、スタイルだとか胸の大きさだとか、頭の中では二人とも真理子の裸を描いて陶然としていたにちがいない。古賀が何気なく、
「間接キスじゃなくて本当にしたいな」
その一言で小暮の顔色が変わった。不審の漂う目つきに怒りが燃え立った。
「お前、あのリード、舐めたのか」
いきなり詰め寄ってきた小暮の圧力に言葉が出ない。口ごもったことで認めたようなものだった。
 彼女が口にしたリードを盗んだということは当然それに触れたい下心があるからで、何をしたいのか容易に想像がつく。小暮だってその欲求があったはずだ。古賀が舐めたものを自分が舐めてしまった腹立たしさにかっとしたのだろう。

 小暮は怒りをあらわにして、犯行の事実を部長に言うと息巻いた。慌てた古賀も売り言葉に買い言葉で、下穿きに射精した件を大村にばらしてやると言い返したそうだ。激怒した小暮が真っ赤になって殴りかかってきた。古賀も応戦したがあまりにも体格がちがいすぎる。一方的にのしかかられて首まで絞められた。
 その時のことを思い出したのか、首筋に手を当てて溜息をついた。
私は笑うに笑えず、二人の修羅場を思い描いていた。
「誰かが顧問に知らせたらしくて、生活指導に呼ばれたんだ」
喧嘩の理由を訊かれたがもちろん話すことはできない。小暮も何も言わず、前から気に食わなかったと言い通したという。

 真っ暗になって、どちらからともなく歩き出した。別れ際、古賀は、
「誰にも言うなよ」と念を押した。
 それから間もなく小暮が退部したことを知った。古賀は復帰したものの、同級生に訊くとどこか暗くなったと言っていた。


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