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『冬の中のあたたかさと優しさ』
【青春 恋愛小説】

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『冬はまだ長くとも…』-3

俺たちは、柊子のことを話していた。というよりも、俺のほうから勝手に言い出したことだが。先刻、ひさぎはこう言った。柊子は新しく誰かを好きになったのではないかと。俺はそれを否定した。でも、可能性としてはそれは確かにあるのだ。むしろ、そう考えたほうが一番自然だ。
それなのに、否定したのは、きっと俺はそれが嫌だからだ。柊子が誰かのことを好きになることが。
柊子の気持ちが、ひさぎへの向かっていたのなら、どこかで、安心していられた。その想いは、重さや色はともかくとして、確実に終わりへと向かっていく種類のものだったから。でも、柊子の気持ちが、新しい誰かへ向かっているとしたら、それは確実に始まりへと向かう種類のものだ。俺は、きっとそれが嫌なのだ。何が嫌かって、きっと俺はそれを祝福してしまうだろうから。
きっと柊子は好きな人ができたと真っ先に俺に言うだろう。きっと柊子は彼氏ができたと真っ先に俺に言うだろう。俺は笑顔でそれを祝福するだろう。それが、嫌なのだ。
だから、そんなことは考えたくない。
「なぁ、つばき。」
「ん?」
そんな思いを読まれたのかもしれない。
「おまえ、ひょっとして柊子のこと好きなの?」
むせた。
うどんがのどに詰まるところだった。
「なっ、何言って…。」
「まぁ、ただの予想なんだけど。」
こいつは、救いようのないほど鈍い奴だと思っていたのに。甘かった。
でも、どのみちもう隠したって仕方ない。いや、言ってしまいたい。
「そうだよ、好きだ。」
一瞬の間のあと、ひさぎは、へぇ、とだけ言った。
「少しは驚けよ。」
「驚いてるよ。」
全然顔に出ていないけどな。
「それにしても、酷いやつだなお前。俺が柊子のこと好きだって知ってて、あのとき相談してきたのか。」「あの時って?」
「お前が柊子に告白された時。」
「えっ!?」
何故ここで驚く。
「あの時から好きだったのか?」
「いつからだと思ってたんだよ。」
「いや、つい最近かと。」再確認、やっぱりこいつは救いようのない鈍い奴だ。
それじゃあ、とひさぎは言った。
「それじゃあ、どうしてつばきは何もしないんだ。その気持ちに、何かしらの形で決着はつけたのか。」
「いや、つけられてはいない、かな。」
ひさぎはがっかりしたような溜め息をついた。
「なんだ。あの時は俺に説教みたいのことを言ったくせに。」
それを言われると、言葉に詰まる。
「あれは、言ってみれば自分の問題じゃなかったからな。」
「他人事だからって適当なことを言ったってこと?俺結構あのときのお前の言葉のおかげで、ちゃんと答えが出せたんだけどな。」
「そういうわけじゃない、真剣に言ってたさ。でもやっぱり、他人に対する真剣な答えと、自分に対する真剣な答えっていうのは違うものなんだ、きっと。」
だから、人は誰かに何かを相談したくなるのだろう。ひさぎも、それをきっと理解した。
「そうか。じゃあ俺の、お前に対する真剣な意見は、『ちゃんと自分の気持ちは伝えておけ』だ。指にひっかけてぶらさげたままにしておいちゃ駄目だ。」
知った風な口を聞く。でも、嫌な気分じゃない。いいものだな、やっぱり。
「サンキュ。」
と、俺は言った。
でもやっぱり、きっと俺は言わないよ。自分の気持ちを伝えなければ、きっと後悔するだろう。でも、俺が後悔をかかえるだけで済むのならそれでいいのかもしれないと、そんなふうに思ってしまう。
もし俺が、この気持ちを伝えてしまったら、確実に、柊子から友達をひとり奪う。どちらに転んだとしても、だ。絶対に柊子にとっての「友達のつばき」はいなくなる。
これは自惚れかもしれないけど、「友達のつばき」は、柊子にとって大切な存在だと思うんだ。


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