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『冬の中のあたたかさと優しさ』
【青春 恋愛小説】

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『冬はまだ長くとも…』-4

そんなことを考えていたら「あ、みっけ。」
すこし遠くのほうから声が聞こえた。
「おーい、つばき。探したよぉ。」
そう言って近寄ってくる柊子。やれやれ、こいつは今まで自分のことが話されていたなんて気付きもしないだろうな。
「つばき、お願い、助けて。」
両手をパチンと合わせて言った。
「何を?」
「明後日にテストがある講義のプリントが足りないの。私結構欠席してたから。つばきあの講義出てたでしょ。」
「で、俺のプリントを貸せ、と?」
やれやれ。
「お願いっ。コピーして明日には返すから。」
「ま、いいよ別に。でもあれ今ウチにあるから、ちょっと持ってくるのに時間かかるけど。」
「じゃあ私も一緒に取りに行くよ。午後は暇だし。ね。」
「まぁ…いいけど。」
ひさぎがなにか意味ありげな視線をよこしたが、それは無視した。



結局、柊子はうちまでついてきた。
「なんか飲む?」
「コーヒーくらいしか無いんでしょ。」
「砂糖くらい買ったよ。」
「お、えらい。でもいいや、今のど渇いてないし。」
「じゃ、まぁ適当なところにでも座ってて。」
とりあえず俺は言われていたプリントを探すために机のほうに向かった。
「あ、あのパズル。」
壁にかかったジグソーパズルを指さして、柊子は言った。
「ちゃんと額に入れてあるんだ。」
懐かしいな、と呟く。
「あぁ、せっかくだしね。…と、あった。はい。」
プリントを手渡した。
「ありがとう。うーん、つばきにはお世話になりっぱなしだね。」
「そうか?」
「うん。数えるときりがないくらい。」
そんな風に言われると、なんだか、少し恥ずかしい。同時に少し誇らしい。
柊子は、姿勢を少し正した。
「そんなつばきに、私ひとつ言うことがあります。」
声の質が、変わった気がした。
嫌な予感が、した。
さっき、ひさぎが余計なことを言ったせいだ。その、すっとよぎった予感を、多分、消すためにだろう、何故だか俺はそれを口にしていた。
「なんだよ、まさか新しく誰か好きな人でもできたとか?」
あくまで、おどけた口調を崩さずに、だ。「そんなことないよ。」という、柊子の、同じくおどけたような答えを期待して。
でも
「うん、当たり。」
人を傷つけられるくらいの笑顔で、柊子は言った。
え? と言う暇も無かった。
「私、好きな人ができたんだ。」
一瞬、心臓が止まるかと思った。柊子が何を言っているのか分からなかった。いや、分かりたくないだけだった。じゃあ、俺はなんて言えばいいんだろう。
「へぇ、どんな奴?」
結局、こんな当たり前の台詞が出てきた。
「優しくて、かっこよくて、あったかいよ。」
何かが、俺の中のどこかを刺す。ゆっくり、鋭く、深く。
「そりゃあ、いい奴だな。」
でも、出てくる台詞は、こんなものだ。だって、他にどんなふうに言えばいいのだろう。友達の俺が。
「でしょ。」
屈託の無い笑顔が、どうしてこれほどまで痛みを与えてくるのだろう。
「…誰?俺の、知ってる奴かな。」
「うん、よく知ってるよ。」
少し恥ずかしそうにして、柊子はそいつの名前を、言おうとした。でも
「ごめん、やっぱり、聞きたくない。」
それをさえぎった。
「え。」
だって
「俺…。」
息を、止めた。言葉を押し込めようとする。でもやはり心音は止まらない。言葉が、押し出される。訝しがる視線をよこす柊子に、俺は、ついに言ってしまった。


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