その(五)-3
美穂は何とも不可解な笑いを浮かべて私を迎えた。照れ隠しのような、はにかむような、それでいて目の色は淫靡に輝いている。
「ふふ、ふふ……」
美穂が微笑み、私が笑いを返すともう余計な言葉はいらなかった。
「きて……」
座敷には布団が敷かれ、私は栗田の言った通り黙って仰向けになった。
奇妙な気持ちだった。
(セックスをする……)
昂奮しているのは明らかに自覚があるのに不思議なほど冷静な感覚が頭の一画にあった。ペニスは山芋みたいに硬直している。それでも気持ちの中にじっと待ちうける余裕があった。
(臭いがない……)
臭いの『感覚』がないことに気づいた。
私の体は舞子しか知らない。舞子によって男になり、彼女とともに成長してきた。そこには必ずあの『臭い』があって、私はそれを感覚しながら燃え立ち、陶酔していったのだった。
美穂にそれを感じることはできない。女体に対しての反応は起こっても頭の中は痺れることなく覚醒していた。
全裸になった私の体を舐めるように見て、美穂は恍惚とした目を潤ませた。
「篠原くん、すてきよ……たまらないわ」
美穂は体を密着させて唇を重ねてきた。すぐにぬるっと舌が差し入れられ、私も応じて絡めると、
「むう……」
美穂はさらに押しつけて唾液を攪拌した。舞子との口づけが鮮やかに甦ってくる。
「ああ、若い匂いだわ……感じちゃう」
ペニスはズキンズキンと脈動している。
唇を離した美穂は身を起して私の下半身に顔を近づけた。
「すごい、すごいわ」
まず頬を擦り寄せ、鼻を押しつけてにおいを嗅ぎ、それからおもむろに咥えた。まばゆい光のような繊細な快感が生まれ、広がった。
「う……」
その動きの巧みさに思わず声が洩れた。テンポがよい上下運動にときおり顔の回転が加わり、幹を握った手は器用に捻りと扱きを繰り返している。
「くう……」
堪えると自然と体が突っ張った。
「出していいのよ。出して」
私の反応を感じた美穂が唾液塗れの口をいったん離して言い、ふたたび肉棒を吸い込んだ。口の圧迫はさらに強くなる。
(ああ……感じる」
放出するつもりで全身の力を抜いた時、突き上がってきていた射精の兆候が止まった。勃起したままで快感は変わらず続いている。それでも、
(我慢できる……)
射精の奔流がせき止められている。初めての体感である。舞子だったらそのまま没入して歓喜に震えたことだろう。そこまで考えて、
(舞子のニオイだ……)
それがないからではないかと思い至った。
舞子を想う時、抱いた時、抱かれている時もあのニオイの感覚は常に私を取り巻いていた。精通も臭いによって誘発されたのだ。