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淫靡眼
【その他 官能小説】

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その(五)-2

 それからしばらくは毎日美穂に抱かれた。生理の時は口や手で行って、
「若いにおいだわ……」
精液のにおいを嗅いでうっとりしていた。
 一か月ほどしてペニスの包皮が腫れてしまった。痛いと訴えるとそれからは減ったものの、少なくなった分、行為に激しさが加わり、濃密になった。
「セックスしない日でも布団は一つで抱かれて眠った」
時には舐めて欲しいと言われて失神するまで性器を貪ったこともある。
「ぼくにも当然性欲はあるから何度も溺れたことはあるけど、限度がある」

 従順にされるがままだった栗田が拒絶をみせるようになったのは高校受験という口実ができてからであった。
「勉強しないと」
「そうね。淳ちゃんのために我慢する」
 このアパートに移って部屋を別にしたのはそのためだ。
「こんなボロアパートに住むようになるとは思わなかったよ。どうしてだと思う?」
「いや、わからないけど……」
「金がなかったんだ」
「だって、かなりあったんだろう?」
「それがあの女が使っちゃったみたいだ。すべて無くなったわけじゃないだろうけど」
そもそも借金があったらしい。それに持ちつけない金を手にして宝石やバッグなどを夢中になって買い、もともと好きだったパチンコにのめり込んで、
「もういくらも残ってないんじゃないかな」
「そりゃひどいな。栗田のお金だろう」
「まあ、そうだが。あいつは『親』だからな」
一度、高校へいくお金はあるのか訊いたことがある。
「大丈夫よ。高校でも大学でも行けるわよ。心配しないで」
 ちょうどその頃、美穂の知り合いから頼まれてスナックに勤めるようになった。さすがに生活費くらいは稼がないとまずいと思ったのかもしれない。

「それで夜は解放されたってわけだ」
それでも土曜日は必ず誘われた。
「誘われたっていっても一方的だからな。いやでも断れない……」
風邪気味だといって仮病をつかったことはある。美穂はそんな時、強いてとは言わず心配してくれた。彼女にとって愛する対象なのだからその意味では大切にしてくれた。『息子』に対してではなく、『愛玩』としての『物』だった。
「あの女、少年が好きなんだ」
「少年?」
高校生になってから美穂が打ち明けたという。
「ニオイが好きなの。若い青草のようなニオイ。ローション塗ったみたいなすべすべの汗……」
まだ未完成の筋肉。性に目覚めた頃の少年に堪らない緊張を感じるのだと言った。幼い子供には興味はないし、脂ぎった男には何も感じない。美穂は栗田を掻き抱いて言ったという。驚いたことに結婚を決意したのは十二歳の栗田がいたからだという。もう少ししたら魅力的な男の子になる……。

「どこまで本当かわからないが、これまで他の男と付き合った様子はないから、そうなんだろう。でも金がなかったらとっくにどこかへ行ってるさ。そのうちいなくなるんじゃないか」
ずいぶん醒めた男だと思った。
「君は、経験あるよね」
「わかるのか?」
「何となくね。……で、頼みがある」
「頼み?」
栗田はためらいも澱みもみせずにその『頼みごと』を口にした。
『あの女』と寝て欲しい。正確には、
「セックスの相手をしてやって欲しい」と言った。
私は問い返す言葉を失ったが、さほどの混乱はなかった。むしろ今までの話の中にすんなりと自分を置いている『自分』に驚いたくらいだ。

「了承済みだから」
美穂にはもう言ってあるという。
「どう言ったんだ?」
「まあ、それは、あの女の要望さ。代りを連れて来いって」
疲れている、と栗田は言い、
「四年も続くと疲れるんだ。でも誰にでも頼めることじゃない」
こんなことが洩れては困る。口が堅い男。それにはまず女を知っていることが前提だと言う。初体験をして有頂天になったらどうなるかわからない。
「彼女はいるの?」と栗田。
舞子の顔が脳裏を過った。
「今はいない」
「それならいいよな」
「うーん……」
私は返事ともつかない声を出して美穂の姿態を思い浮かべていた。
「言っておくけど、君は寝ているだけで全部任せた方がいい。あいつは自分の自由にしたいんだ。それが好きなんだ。昂奮するらしい」
栗田はそう言って二階に目をやった。
「いま風呂に入ってるからもう少ししたら行くといいよ」
耳を澄ませるとそれらしい水の音が聞こえていた。


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