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『清子と、赤い糸』
【幼馴染 官能小説】

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『清子と、赤い糸』-6


「岡崎クンなぁ、なんか、スポーツやっとるんか?」
 体育の時間が終わり、HRの最中に、清子は隣の岡崎にそう問いかけていた。
「いや、してないよ」
 あっさりとそう応えられて、彼の運動能力に天賦の才があることを改めて知らされた清子は、決断が早かった。
「ほんなら、野球、やらへんか?」
「野球……?」
「投げる走るで、あれだけできるんやから、なんもせんかったら、もったいないで」
「………」
 何事も即答の岡崎が、珍しく考え込む仕草をしている。断る理由を探しているのかと思ったが、どうやらそうではないらしく、
「やってみたいな」
 と、朴訥な表情は相変わらずで、しかし、前向きな言葉が出てきた。
「決まりやな。ウチの入っとるチームに、連れてったるわ」
 そして、HRが終わるなり清子は、リクルト・イーグルスの帽子を被り、ランドセルを引っつかむと、空いた方の手で岡崎の腕を引っ張って、教室中の揶揄するような声も耳に入らず、所属しているリトル・リーグのチームの練習場となっている河川敷のグラウンドに駆け出していた。
「あら、きよちゃん。ナンパでもしたん?」
「ちゃ、ちゃうよ!」
 まだ誰もいないグラウンドのベンチで、練習で使用しているボールの汚れや痛みを丹念にチェックしていた、穏やかな雰囲気の妙齢の女性が、男の子の腕を引いて、息せき駆けて来た清子の姿を見るなり、そう言ってきた。
 その女性、星野晴子は、清子のいるチームの監督の細君で、チームのみんなにとって、優しい“お母さん”でもあり、清子も憧れて懐いている人である。
「こんにちは、岡崎まもるです」
「こんにちは」
 清子と晴子のやり取りにも気を取られず、岡崎はやはり、冷静だった。
「ひょっとして、チームに入るんかな?」
「まだそこまで、はっきりしとるわけやないけど、野球、やらせてみたいんや」
「お願いします」
「そうなんや。きよちゃん、やっぱり、ナンパしたんやね」
「ちゃ、ちゃうっていうとるのに!」
 結果的には“チームに誘った”という意味で、そうなっていることに、清子は気がついていない。
「予備のグラブで古いのやけど、これでよかったら使うて。あと、帽子もかぶってな」
「ありがとうございます」
「ハルさん、おおきに。ほな、むこうで、キャッチボールしてみよか」
「うん」
 晴子から、チームの帽子と使い古しの内野手用グラブを一礼しつつ受け取った岡崎をつれて、清子は早速とばかりに、グラウンドの脇に場所を移すと、ラジオ体操第一で身体のストレッチを行ってから、ボールを岡崎に渡した。
「ゴムのボールとは、違うんだね」
「硬式やからな。当たったら、ほんま痛いねん」
 “だから、気ぃつけてな”といいつつ、ボールの握り方を岡崎に説明するため、その手を取る清子。
「………」
 不意に、同じ年頃の男の子の手を、掴んでいるという実感が何故か湧いてきて、胸にわずかな動悸が走っていた。グラウンドに来るまでには、その腕を遠慮なく掴んでいたにも拘らず、そのときとは違う、妙な緊張感を、清子は持っていた。
(ハ、ハルさんが、ヘンなこというからや……)
 “ナンパしてきた”と言われて、相手に“異性”を感じてしまったのだ。
「最初はかるーく、これぐらいの距離でやろか」
「わかった」
 そういう緊張は何とかしまい込んで説明を終えた清子は、小さく10歩ほどの距離を置いて、改めて岡崎と対峙した。
「ウチの構えてるとこ、投げてや」
「うん」
 ボールは岡崎が持っているので、清子はグラブを構えて、彼が投げるのを待った。


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