果肉甘いか酸っぱいか(1)-1
より確実に対象者に服用させる。それには余裕のある状況設定が重要であることは当然のことだ。特に時間的に無理は禁物である。貴重な薬を無駄にしないためにも性急に事を運ぶのは避けなければならない。そして方法、手段もさることながら、理想的には環境条件が整っていればさらにいい。つまり、周りに邪魔者がいなければいいのだ。そうすれば効いたあとも焦らずじっくり実行に移すことが出来る。
(女と二人きりで長時間一緒にいられれば…)
そんな都合のいいことは…。あるはずないか…。
それでも考えを巡らせてみる。たとえば故郷に帰れば同級生を誘って飲む機会をつくることはたやすい。この齢になれば女のほとんどが結婚しているだろうが、
(してたって構わない…)
薬さえ飲ませればあとは勝手に流れていくだけだ。
何人かのクラスメイトを思い浮かべてストーリーを作って想像を広げてみる。
(沢村翔子…)
どうせならあの女だ。酒屋の一人娘で釣鐘のようなオッパイをしていた。体操着姿には圧倒されたものだ。物怖じしない女だから誘えば一人でも来るだろう。
(年末に帰ったら試してみるか)
そうは思ってもいまひとつ燃え立つものがない。
そんなある日、思いもよらない標的が俺の頭を支配することになった。特に用もないのにときおり電話を掛けてくる母の話に適当に相槌を打っていると、ある名前を聞いて背筋に戦慄が走った。
(とびきりの女を忘れていた…)
ーー優花ちゃんが推薦で高校が決まったんだって。有名なところらしいよ。
「!……」
頭に映じたのは優花ではない。彼女の母親、叔母の容姿である。
(ああ…あの…)
さすがに俺はその考えを振り払おうとした。
おふくろの末弟の連れ合いだから血の繫りはない。が、しかし……。
齢は奈々枝より若い。美しさも比較にならない。才色兼備、容姿端麗、明眸皓歯、賛辞をいくら並べ立てても足りないほどの美貌である。
初めて会ったのは親戚の葬儀だった。参列者の誰もが目を奪われていた記憶がある。喪服がより美しさを引き立てていた。
大学に入って一度遊びに行ったことがある。飲みなれない酒を叔父にすすめられて酔いつぶれてしまった。いや、『潰れ』てはいなかった。トイレに立った時にふらついて、
「おい、それじゃ危ないな。泊まっていけ」
叔父の言葉に縋りつくように酔ったふりをしていたのだった。
「気分はどう?」
「はい、大丈夫です…」
言いながら倒れかかる。
「あらあら、大丈夫じゃないわね」
叔母にやさしく抱えられて俺は内心ときめきの渦の中にいた。
あの時の彼女の香しい匂い。思慕の念が胸に満ちて苦しくなったものだ。
(叔父はあの体を抱いているのだ…)
その夜、たまらず扱いてあっという間に噴出した。
だが、その後は叔父の仕事の関係で外国暮らしが続き、会うこともなくなってしまった。いまでも思い出すことはある。
ーーお前も気持ちだけでもお祝いしないとね。社会人なんだから。
「わかってるよ」
叔父には中学から 大学までお祝いを含めて何かと世話になっている。
ーーうちが送る時、立て替えておこうか?
「いいよ。持っていくから」
ーー孝史はいないよ。
「知ってる…」
だから行くのだ。叔父は二年間の期限つきでドイツに単身赴任している。年に何回か帰国しているようだが、今は留守だ。年末には必ず帰ってくる。
熟女である。数か月ご無沙汰となれば持て余しているのではないか。俺はためらいを棄て、良心を握り潰した。とたんに体が熱くなった。
さて、どうするか。これはいままでとはちがう。
俺は腰を据えるとコップに冷えたビールを満たして一息に飲み干した。気力が漲ってきた。
叔父が留守だから甥とはいえまさか泊まるつもりで訪問は出来ない。あくまでも優花のお祝いに行くのだ。
薬さえ飲ませてしまえば後は成り行きに任せれば行き着くところは決まっているのだから策を練るまでもないのだが、そうなった時に邪魔なのが優花である。叔母が欲情した際、あの子がいては困る。幼児なら寝かしつけることもたやすいが、そうもいくまい。
(まてよ…)
邪悪な心が顔を覗かせた。
(あの子も使えないか?)
叔母に対するものとは異質な昂奮が芽生えた。
優花の記憶は小学生の頃、実家で見かけたことくらいしかない。一人っ子ということもあってか、人見知りする子供だった印象がある。
来年高校ということは十五。沙織よりまだ未成熟だ。子供、とはいいきれない。どんな体になって、どうなるか、興味はある。
ともかく、一方だけ薬が入って同じ家にいるのは厄介だ。他に誰もいないのだからどうせなら二人一緒の方がいい。となると、やはり『ケーキ』を使うのがいいだろう。
(母娘ともども3Pなんてことになったら…)
どうする?
「くくく…」
俺は湧きあがってくる笑いをこらえながらビールを流し込んだ。