冥界の遁走曲〜第一章(後編)〜-17
何故それをあの時考えられなかったのか?
「行くぞ!神無月 闘夜!!」
これが、最後の勝負になる。
闘夜もさっきから血を多く流しているし、アキレスも殴られすぎている。
その中で癒姫は一人両手の平を握って祈っている。
「行くぜ!アキレス!」
二人はお互いに剣を構え合った。
『闘夜、さっきはよけられたが、今度は当てるぞ』
「ったりめーだ、お前と共に俺は勝つんだ。
全力で行くぞ!」
『御意…』
闘夜とアキレスは共に剣を振り合った。
闘夜は下から上に。
アキレスは両方を交互に。
お互いの放った衝撃刃はぶつかり合い、競い合う。
『闘夜、次だ!』
その瞬間、闘夜が動いた。
今度は下から上に剣を振り、さらに衝撃刃をい発生させた。
放った衝撃刃は先ほどの衝撃刃とからみあい、アキレスの衝撃刃ごと飲み込んだ。
アキレスはその瞬間、全ての衝撃刃を受けた。
「うおおおおおおおおお!!」
アキレスの悲鳴が聞こえる。
闘夜は意識を失いそうになるが、今意識を失う訳にもいかない。
木剣を地面に突き刺して体だけでも立たせようとする。
『神無月 闘夜。
主はよくここまで頑張ったな』
木剣がそう言うと、闘夜の目はたちまち月光色を失っていく。
まるで鎮魂歌を奏でられたかのように。
「すっごいしんどい…」
闘夜がだるそうにつぶやいた。
『さあ、アキレスの元へ』
「そうだな…」
闘夜は倒れているアキレスの元へと歩き出す。
◎
負けた。
アキレスは今にも意識を失いそうになりつつ、それを実感していた。
不思議なことに気分はすがすがしい。
あの衝撃刃に憎悪の念をも吹っ飛ばされたかのように。
アキレスは歩み寄ってくる少年をおぼろげに見ている。
「大丈夫か?」
「生きてはいるが…もう戦えん」
アキレスはけだるげに答える。
「当たり前だよ、あんな衝撃刃受けたら俺なんか死んでしまうさ。
それをくらって生きてるお前を尊敬するよ」
「俺の方こそ…お前という存在に賞賛を送りたい」
アキレスは右手を差し伸べてきた。
闘夜にはそれが何を意味するのかが分かっている。
闘夜もまた右手を伸ばし、アキレスと握手する。
「俺は…全てが間違っていたんだな。」
アキレスは悟ったように自分の中に芽生えている本心を言う。
「俺は始めから全てを間違えたんだ…。
生まれて来たこと、四神に出逢った事。
四神に全てを与えられた事、四神に全てを奪われた事。
もし俺を生んだ奴がいるとすれば…どういう想いで俺を生んだんだろうな?」
「そんな事は俺にも分からない。
でもお前には一つだけ言える事がある。」
闘夜はアキレスとの握手を中断し、こっちに向かってきている癒姫を指す。
「お前には想ってくれている奴がいる。
だから癒姫も…、今どこにいるか知らないが御剣や三神もお前を止めようと動いたんだぜ?」
「…そうなのか?」
アキレスが期待の笑みを浮かべながら、不思議そうな顔をして闘夜に再確認する。
「ああ、確かに戒って所から命令は受けてたけど、そんなんなくても動いてただろうな」
「そうか…」
アキレスは目を閉じてかすれた声で笑った。