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冥界の遁走曲
【ファンタジー その他小説】

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冥界の遁走曲〜第一章(後編)〜-16

…今はまだ、その時ではないですね。
癒姫は、この戦いだけは見守ることを決めた。
だが、万が一闘夜がアキレスを殺すようなことがあってはならない為、いつでも飛び出せる準備だけはしておく。
…どうか、そんなことがないように…
癒姫は誰にも聞こえないように心の中で祈りを込めた。



「チンケ臭い過去話ぐだぐだ並べやがって。
映画のヒーローにでもなったつもりかよ?」
もはや怒りを通り越して呆れている闘夜はそれでも戦いを続ける。
アキレスの元へと跳び、片手で木剣を振るう。
何とか小太刀で受け止めるアキレスだったが、攻撃を受け止められた闘夜はニヤリと笑っている。
「そうやって沈んでっからお前は今の俺に負けんだよ!」
超無謀な勝利宣言。
だが、その言葉には癒姫を信じさせる力がこもっていた。
闘夜は木剣を持っていない手でアキレスの頬をぶん殴った。
闘夜のパンチはアキレスの体を吹っ飛ばすには十分な破壊力があった。
アキレスは軽い脳しんとうを起こし、その場で倒れる。
すかさずアキレスの顔を踏みつけた。
「俺がどうして癒姫の方についたか分かるか?
それはな、お前は自分の事しか考えてねぇザコだからだよ。」
悪魔のような笑みを浮かべながらアキレスの顔をグリグリと踏みつける。
「だが癒姫は違った。
他人守る為に自分のガタイ張って全てを守ろうとしたんだ。
お前のくっだらねぇ名誉も、お前が憎んでる死神とやらをなぁ!」
「だまれ!!」
アキレスは闘夜の足を掴んで立ち上がる。
アキレスは背が高いので闘夜は宙づり状態になった。
「今の俺に名誉はいらん!
俺が今望むのは死神の首のみ!
その為なら俺の命すらくれてやる!」
「こ…のクソ野郎!!」
宙づり状態のまま木剣でアキレスの腹を突く。
アキレスは突かれた方向に真っ直ぐ飛ばされた。
「自分の命かけて人の命取んじゃねえよ!
てめえ戒だろ?なら癒姫と同じ命の使い方しやがれ!!」
「ぐぅ…」
言葉でも、力でも返せない。
アキレスと闘夜の間には実力差が生まれていた。
…何故だ!?何故ド素人なはずのこいつに俺が一方的にやられている!?
気がつくと、闘夜は自分の目の前に立っていた。
「自分の命は人を守るために使え。
少なくともお前は四神に奪われるまではそれができてたんだろ?」
「はぁ、はぁ、はぁ…」
アキレスはよろよろながらに立ち上がる。
闘夜はずっと腹部に攻撃を集中させていたのでアキレスの息切れは必然だった。
「アキレス、ケリつけようぜ。
自分の命を殺すために使うお前が正しいのか、
自分の命を守るために使おうと今必死で頑張ってる俺が正しいのか…」
「勝負だ!」



アキレスは目の前にいる少年に憤りを覚えつつも感謝していた。
少年は今全力で自分と向き合っている。
全力な言葉を投げつけ、全力で自分と戦っている。
ここまで必死に自分に向き合ってくれる少年は初めてだ。
崇拝までしていた四神も与えてくれただけで何もしてくれなかった。
それが奪うためだと知らず、自分はなんと愚かな人形であったか。
ならば四神の施しなどには頼らず自分で手に入れればよかったのだ。


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