投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

冥界の遁走曲
【ファンタジー その他小説】

冥界の遁走曲の最初へ 冥界の遁走曲 32 冥界の遁走曲 34 冥界の遁走曲の最後へ

冥界の遁走曲〜第一章(後編)〜-18

「おい、死ぬなよ!?」
「大丈夫だ、ボロボロだが俺は生きる。
今度は誰の助けも受けず、自分で何かを得る為に…な」
「ああ、それが一番だ」
闘夜とアキレスは笑い合う。
そしてようやく癒姫がその二人の間に入る。
「戒の方に連絡を入れました。
もうすぐ救護班が迎えに来てくれるのでここで待機だそうです」
「癒姫、君にもいろいろと迷惑をかけた。
すまない」
アキレスが謝罪すると癒姫は突然恥ずかしそうに頬を赤くして、
「アキレスさんが分かっていただければ、それでいいです」
癒姫は祖父が殺されるという焦燥を忘れてすっかり笑顔だ。
…全てを、守れた…
闘夜は人知れず小さな感動を胸に秘めていた。
その時だった。
ズゥゥゥゥゥゥン…
突然大きな自信が三人を襲う。
「な、何だ!?」
闘夜が慌ててその場に癒姫とアキレスを伏せさせる。
…こんな時にどうして地震が…?
「やっと…見つけた…」
それはまるで獲物を見つけた獣の声。
幼い少女の低い声。
三人は同時に声のした方向を見た。
空だ。
空に御子服を着た少女が立っていた。
物理的に言えば浮かんでいると言った方がよいはずなのだが、少女はまるで地面の上にでも立っているかのように浮かんでいた。
年齢は12、3歳くらいだろう。
闘夜や癒姫と比べると背も低く幼い。
「アキレス…」
少女がつぶやいた瞬間、アキレスが宙に浮いた。
闘夜と癒姫はアキレスに驚愕のまなざしを送る事しかできなかった。
少女は突然クスクスと笑い出した。
闘夜と癒姫はその時、二つの事に気がついた。
一つはアキレスが浮いたのはこの少女が何かをしたからだということ。
そしてもう一つは彼女の目だ。
「目が…光ってる!?」
闘夜にはその色が何なのか分かった。
月の光の色。
『月光色』だ。
「そんな…彼女も!?」
癒姫の言葉に闘夜は眉をひそめる。
…彼女『も』!?
だが、それどころではない事に気付く。
アキレスが突然うめき声をあげはじめた。
「ぐおおおおお!!」
アキレスの体がだんだん縦に長細くなっていく。
闘夜は即座に少女がアキレスに何をしようとしているのかを悟る。
「やめろおおおおおおお!!」
グチャッ。
少女はやるべき事をやってからアキレスを落とした。
闘夜は重い体を何とか動かしてアキレスをキャッチする。
が、それはキャッチした瞬間に消えてしまった。
闘夜の手の中に血と小太刀を残して。
闘夜の顔に恐怖と悲しみが一気に押し寄せる。
そしてそれは心の防波堤を崩して口から出てきた。
「アキレーーーーース!!」
膝を折って涙を流す。
だがそれも一瞬の間だ。
今は悲しむ時ではない。
闘夜の心の中に先ほどの感情は消えていた。
今あるのは溢れんばかりの憤怒。
「お前ーーーーー!!」
闘夜は血だらけの手で木剣を構えた。
今の闘夜の中にあるのは少女を倒すことだけだ。
だが、それは他ならぬ木剣が許してはくれなかった。
…え!?
闘夜には信じられなかった。
さっきまで軽かった木剣が嘘のように重たい。
木剣を支えきることさえできずに剣先を地面に落としてしまう。


冥界の遁走曲の最初へ 冥界の遁走曲 32 冥界の遁走曲 34 冥界の遁走曲の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前