再会-1
由佳21歳は、毎日、単調で変化のない日々を送っていた。短大を卒業して1年、同じ電車に乗り、仕事をして、誰もいない家に戻てくるだけの繰り返しだった。
「前向きに考えないと」
由佳は、ため息まじりに呟いた。
由佳をそんな気持ちにさせているのには、ある出来事があった。1年半前、由佳の初恋は終わった。初恋の破局は、誰にでも辛いものだが、由佳の破局の原因は、彼の突然の事故死だった。それ以来、由佳は彼の死という辛い過去を引きずって生きていた。
由佳は高校卒業後、東京の短大へ進むこととなり、地方から上京、独り暮しが始まった。上京して始めたアルバイト先で、徹と出会い、二人は恋に落ちた。由佳にとっては、これまで付き合った唯一の男性であり、唯一、身体を許した人物であった。二人が交際したのは、1年半位であったが、由佳にとっては、掛け替えの無い時間であった。彼の死後、由佳は男性と付き合うきっかけが無い訳ではなかった。由佳の美しい顔立ちとスタイルの良さは、周囲の男性を虜にし、交際を告白されることも多かった。しかし、由佳は自分の過去を引きずり、新たな恋愛へ進むための、気持ちの整理がついていなかった。由佳は東京で独り暮しを続け、毎日、単調な日々を過ごしていた。
そんな由佳も、少しづつではあるが、前向きに気持ちを切り替えるように努めていた。由佳に言い寄ってくる男性は何人かいたが、拓也には好意的な印象をもっていた。拓也は、由佳が短大に通っていた時からの知り合いで、同じサークルの仲間だった。学校は違ったが、近くの4年生大学との合同サークルであり、同じ年齢の拓也は、今、大学の4年生だった。拓也は、由佳がまだ、徹と付き合っている時から、由佳に対して、交際を求めていた。拓也からしてみれば、もう、2年以上も一途に思いを寄せていることになる。拓也は、由佳の清楚で美しい顔立ち、ズバ抜けたスタイルのどれをとっても、高嶺の花だった。豊かな胸の膨らみ、くびれたウエスト、小尻ながらキュンと上を向いたヒップ、そして、165センチはありそうな身長、全ての身体全体のバランスが素晴らしかった。男の目線で言わせてもらえば、由佳の身体は「やらしい身体、エロイ身体」であった。自分の性欲を処理するために、女性を選ぶ時、誰もが由佳のような身体を理想とするだろう。そして、そのやらしい身体
と清楚な顔立ちのアンマッチさが、世の男達を魅了した。 由佳と拓也は、ここ一ヶ月で、食事をしたり、連絡を取り合う仲になっていた。付き合おうと口に出した訳ではないが、友達以上の関係には間違いない。まだ、手を繋いだこともないが、由佳の気持ちは、少しづつ、前に進んでいるようであった。明日の土曜日は、拓也と初めてのデートの予定だ。拓也は、いきなり旅行に行こうと、由佳を誘ったが、由佳はまだ、そこまで過去の辛い記憶の整理が出来ていなかった。結局、明日は、箱根まで日帰りで温泉に行く計画になった。由佳としては、徹の死後、初めての遠出となる。由佳は、久しぶりに、明日を待ち遠しく思っていた。
携帯電話の着信メロディが鳴る。拓也からだ。
「もしもーし。由佳ちゃん。明日、予定通りで大丈夫?3時間はかかると思うから、朝の6時頃に迎えに行ってもいいかな?」
朝の6時には驚いたが、由佳は快く返事をした。
「それと水着を忘れないでね」
拓也の言葉に、由佳はハッとした。水着のことなんて、全く考えていなかった。言われてみれば、初のデートで温泉に行って、男女バラバラに入浴するのでは寂し過ぎる。由佳は戸惑ったが、「水着ね。忘れないようにするね」と答えた。 次の日の朝、拓也は予定通り、由佳を迎えにきた。冬の早朝。外はまだ、暗闇に包まれている。由佳が車に乗り込むと、拓也は「しゅっぱーつ!」と号令をかけ、車を走らせた。