マシュマロ絵理-3
ペットボトルのお茶を持ってきたことを思い出してバッグから取り出すとぬるくなって泡立っている。生ぬるかったけど喉が渇いていたので体が落ち着いた。
「あたし、持ってこなかった」
「よかったら飲んで」
「ありがとう。こんなに歩くんだったら買ってくればよかった」
絵理は私より汗をかいている。首筋の汗が一滴、胸元に流れた。
陽は強いものの、じっとしていれば風も涼しくて心地よい陽気である。
絵理のむっちりした脚が草の上に生々しく伸びている。夢の映像が脳裏を巡った。
「須田さんの脚、ほんときれい」
ふざけた仕草で太ももを指で突っついた。
「柔らかい…色白だし…」
「触っていいわよ…」
絵理は笑わずに言った。私をじっと見ている。私がためらっていると、
「触って…」
私のほうへ脚を寄せてきた。
閉じた内腿に手を置く。脚が少し開いた。汗ばんでいるけどもちもちしている。
「べとべとでしょ?」
「柔らかくて、いい気持ち…」
私の手は這うように奥に進んだ。手首までスカートに隠れたところで止めた。あとわずかで下着に届く。
絵理は両手を後ろについて、さらに股を広げた。
(触って欲しいのね…アソコに…)
受け入れてくれている。気持ちがわかって安心した。
私は指先を股関節の寸前まで伸ばして留まり、辺りをゆっくり撫でた。性感帯が緻密に張り巡らされた一帯である。停滞したのは意図してのことだ。鋭敏な部分にすぐ取りつかず、直前でじらすように蠢く指。何とももどかしい距離感が心底からの昂奮を生む。
「下條さん、やさしかったでしょう?」
手の動きをさらにゆっくりする。
「うん…でも…」
言葉を切って、
「あたし、好きじゃないの。あの人も、白幡さんも…」
「何かあったの?」
「ううん。そうじゃなくて…したくないの」
「変なことされたの?」
ディルドのことが浮かんだ。
「されたのね、器具で」
「知ってるの?」
「道具があるのは杉本さんから聞いてたわ」
「そうなの。でも、断った…」
絵理の目元が薄紅色に染まってきた。
「私は見たことないけど、抵抗あるよね」
本心を言うと興味があるのだが、彼女の気持ちを思いやってそう言った。
「厭だった…」
絵理は真っすぐな目を向けて言った。
思えば私もサリーも、玲奈までも誰かと肌を合わせている。あの初めての全員入浴の昂揚感を抱いたまま接触することになった。流れにのって惹きよせられるように求め合ったのだ。絵理は昨夜初めて淫靡な機会を持った。一人だけ間が開き過ぎたのかもしれない。
「いきなりディルド見せられたの?」
「そう。入れてみる?って」
「それで?」
「いやですって言ったら、ローション塗ってって言われた」
そして美和子は全裸になったという。彼女の熟した肉体が思い出された。
「塗ってあげたんだ」
「うん…」
その後のことは経験したから想像がつく。私は絵理と美和子が絡み合って性器を舐め合い、熔け合っていく姿を思い描いて胸を熱くした。ところが絵理は意外なことを言った。
「少しして、あたしにも裸になればって言うから、厭ですって言っちゃった」
私は手の動きを止めた。
「下條さん、何て言った?」
「笑ってた」
でも、ぎこちなくて驚いた様子に見えたという。それはそうだろう。
「それから?」
裸はお互いをよく知るためだとか、お風呂で一緒だったんだから恥ずかしくないとか、宥めすかした。
「それでも断った。お風呂は仕方ないけど、他ではいや。裸になるのは好きな人の前だけですって言ったの」
「ほんと?」
思わず内腿の手を引っこめると絵理に抑えられた。
「いいの。続けて。佐伯さんは好きな人よ」
そう言って私の肩に手をかけた。
「けっこうはっきり言うのね。すごいわ」
「生理的な問題だと思うの。触れたい人と厭な人。理屈じゃないの。あの人たちはだめだわ。あなたは好きよ。初めから…」
絵理は下半身をむずむずと動かした。
私は何て答えていいかわからずに曖昧な笑みを見せていた。美和子がその時どんな表情だったのか想像もつかない。
初めて全員入浴をした時のことを訊いてみた。あの時絵理も恍惚としていたように見えた。
「たしかに感じたわ。異様な雰囲気だった。でもあたしが見ていたのは同期のみんなよ。先輩じゃないわ」
肩に置かれた
「じゃあ、下條さんとは何もなくて、ずっとローション塗ってたの?」
「ううん。帰っていいって言われた。白幡さんにも言っておくからって。帰ろうとしたら、脚だけ見せてくれない?って言われて…」
立ったままジャージを下げて見せた。
「下條さんは?」
「きれいな脚ねって…最後に、股のところにキスされた…」
美和子は絵理の肉感に欲情していたにちがいない。
「でも、戻ってくるの遅かったでしょ?ドアの音、聞こえたから」
「ロビーにいたの。何だか気が抜けちゃって…」
「そうだったの…」
私は太ももをやさしく揉み込んだ。自分がそばにいれば慰めてあげられたのに、その時はサリーと……。
絵理は話しながら、ときおり目を閉じて吐息を洩らした。
「あたしね、まだバージンなの」
「…そう…」
「杉本さんには経験あるってウソついちゃった。聞いた?」
「知らないわ、聞いてない」
そう言った方がいいと思った。
「佐伯さん、あるんでしょう?」
「…うん…」
「あたし、まだなんだ…」
「早ければいいってことでもないわ」
「そうかな。…いろいろ教えてね」
「うん…」
どういう意味なのか、真意は計りかねたが私は気持ちが楽になった。別に私のために下條さんとの接触を拒否したわけではないのに、打ち明けられて頼られたことで身も心も捧げられたような満足感を覚えたのだった。