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『神々の黄昏』
【SM 官能小説】

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第5章-1

      第5章

 横浜女学院高校を後にした祐志は、その足で厚木へと向かった。小田急の本厚木駅から北へ約二キロ。妻田小学校の近辺はモダンな一戸建ての多い住宅街だった。智子が書いてくれた地図どおりに行くと、「川野」という表札の出ている家はすぐに見つけられた。
 ベルを押すとドアが開いて二十歳くらいの女性が出て来た。
「私は防衛省の北岡という者ですが、川野利佳さんのことで少しお話がありまして」
「利佳は今いませんけど」
「ええ、知ってます。ちょっと混み入った話なので、あのう、すみませんが中に入れてもらえませんか」
「はあ、どうぞ」
 相手は多少訝しがりながらも祐志を家のリビングに通してくれた。
「私は利佳の姉で利奈と申します。失礼ですが利佳とはどういったご関係ですか」
 祐志は一瞬ウッと詰まった。まさか、あなたの妹さんを買春した者です、なんてことは言えまい。
「まあ、ちょっとした知り合いなんですが、それより利佳さんは一昨日の夜から自宅に帰ってないでしょう」
「ええ、そう言えば、ここ二三日帰ってませんねえ。でも、あの子は売春をやってるから、一週間くらい家に帰らないこともよくあるんですよ」
「ば、売春をやってるからって、あなた、よくそんなことを」
「いけませんか。私も高校時代はやってましたよ」
 利奈は平然と言う。なんとおおらかな家庭なんだろう。祐志は驚いた。
「北岡さん、社会現象として女子高生が売春をする国なんて日本くらいですよ。これは世界に誇るべき日本の文化だと思いませんか」
「はあ? そうなんですか」
「そうですよ。古来日本人は極めておおらかな性の観念を持って、麗しき性の文化を享受していたんですよ。それを儒教だのキリスト教だのといった外来文化の貞操観念が歪めてしまったんですわ。しかし今、女子高生が先駆となって、日本古来のおおらかな性の文化を取り戻そうとしてるんですよ」
「ちょっと違うような」
 祐志は首を傾げた。しかし利奈はそんな祐志を無視して、
「北岡さん、セックスはお好き?」
 と訊く。
「まあ、嫌いではないですけど」
「それじゃ、私とセックスしましょう」
 そう言うと、利奈はいきなり祐志に抱きついてきて彼をソファーに押し倒した。そして自らの唇を祐志の唇に押し当てた。
「ちょ、ちょっと待ってください」
 祐志はなんとか唇を離して声を出した。
「どうして? 私とじゃお嫌?」
「いや、そういうわけではないけど」
「じゃ、日本の伝統文化を体現しましょうよ。古来日本人はいつでもどこでも自由にセックスを楽しんできたんですよ。日本人なら性に対してもっとおおらかであるべきです」
 利奈によると、援助交際や不倫やフリーセックスといった、保守的な伝統主義者が性の乱れだのモラルの崩壊だのと言って眉を顰めるものこそ、実は中世以前の日本古来の正統な伝統文化への回帰であって、逆に彼らが日本の伝統だと考えているものは、近世以降の底の浅い外来文化でしかないそうだ。だから日本文化の向上のためにセックスしなければいけないのだと主張する。
 この女は少し頭がおかしいのではないかと祐志は思った。
「あなたのお説はよくわかります。でも今はそんなことをしている場合じゃないんです。実は利佳さんが殺されたんですよ」
「えっ、利佳が殺された?」
 利奈はようやく祐志の体から身を離して元の席に戻った。
「誰に殺されたんですか」
「実行したのが誰かはまだわかりません。しかしそれを指示した者はわかってます。久野あやかという女です」
「何者ですの、その久野あやかって。どうして利佳が殺されなきゃいけないんですか」
 祐志は十五日からの経緯と、最前水野智子から聞いてきたこととを利奈に話した。この女なら理解があるだろうと考えて、買春の件も隠さずに話した。ただラグナロク作戦の件だけは伏せて、ある防衛機密という表現に止めておいた。


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