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『神々の黄昏』
【SM 官能小説】

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第5章-2

「日本が世界に誇るべき性の文化をそんなことに利用するなんて許せないわ」
 利奈は憤慨した。
 祐志は伝えることだけ伝えて川野家を後にすると、小田急で新宿に戻り、今度は高橋が勤める旅行会社へと向かった。
 しかし高橋は昨日から海外に出張しているらしくて、日本に帰って来るのは十日後ということだった。わざとそういうタイミングを選んで実行したのだろう。また出張先での滞在ホテルや連絡方法などは、個人情報として教えてもらえなかった。
 翌十八日、祐志は悩みに悩みぬいた。国家を裏切って自己の保身を図るか、それとも国家に忠誠を尽くして自身は破滅するか。もはや彼にはこの二者択一しか残されていなかった。しかもタイムリミットは二日後の十一月二十日だ。
 そして十一月十九日、土曜日の夜、祐志は防衛省の建物に入ると、誰もいない作戦課の部屋に行き、部屋の照明も点けずにコンピュータを起動させた。
久野あやかが言ったとおり、統合幕僚監部のメインコンピュータには簡単にアクセスできた。ラグナロク作戦のパスワードも容易に推測できた。そしてラグナロク作戦の全容詳細の画面を開いた時、ドアの開く音がしてパッと部屋の照明が点けられた。
祐志はあわててコンピュータの画面を隠した。入って来たのは工藤有希恵三佐だった。
「有希恵さん、どうしてここに?」
「言ったでしょう、私、統合情報部の所属だって」
「俺を探っていたのか」
「ううん、久野あやかを探っていたのよ。そしたら北岡君が自分からそこへ入って来た」
「ハニートラップにかけられたんだ」
「ええ、知ってるわ。それも十七歳の女子高生のハニートラップにかけられたんですってね」
 有希恵はやや軽蔑したように言う。
「面目ない」
 祐志は返す言葉もなく、ただ俯いた。
「まあ、仕方ないわ。日頃あまり女性と接していない晩生の人ほど、ハニートラップにかかりやすいって言うから」
「久野あやかって何者なんだ。やはり中南海の回し者か」
「ええ、あの女は習近平の個人的な飼い犬よ」
「中国人なのか。それにしては日本語が流暢だったけど」
「国籍はわからないわ。私が知ってるだけでも六ヶ国のパスポートを持って自由に使い分けている。ちなみに中国では陸虹と名乗ってるわ」
「どうして高橋がそんな女に協力してるんだ」
「高橋保典は上海でハニートラップにかかったのよ。あなたと同じ。それ以来、彼は久野あやかの言いなりだわ」
「じゃ、先月Facebookで俺に近づいて来たのも」
「そうよ。最初からラグナロク作戦が目当てだったのよ。と言うか、北岡君を目的として、高校時代の友人である高橋保典がまず狙われたのよ」
「そうだったのか」
 有希恵は祐志に近づいて来て、彼が隠したコンピュータの画面を開いた。
「やはりラグナロク作戦ね」
「俺を警務隊に告発するか」
 祐志は観念したように言った。しかし有希恵は首を横に振った。
「ううん。北岡君はまだラグナロク作戦の画面を閲覧しただけよ。統幕監部の内部のコンピュータからだから、不正アクセスにもならないし」
「でも俺は」
 何か言いかけた祐志を、有希恵は片手で制した。
「北岡三佐。あなたを信じてるわ。私の信頼を裏切るようなことはしないでね」
 それだけ言うと、有希恵は祐志の肩をポンと叩いて、部屋から出て行った。
 後に残された祐志はしばし思案に暮れた。しかしやがて決心したようにウンと頷くと、
「有希恵、ごめん」
 と呟いて、久野あやかから渡されたUSBメモリに、ラグナロク作戦のダウンロードを始めた。


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