幻影-8
そこに辿り着く答えをその男、ノアは気付いていた。
自分自身、身に覚えのある感情。それに似通うものであるはずだ、と。
アズールは自分が少女と接触することを酷く嫌う。
――その理由もまた、心当たりがありすぎるほど分かっている。
「俺も君が叱られるのは望んでないし、そろそろ御暇するね。またお話しよう」
「あ、あんた名前は?」
指一本触れずこうして話をして帰るだけの彼に、シウは疑問を抱きながらも落ち着きを持ち始めていた。
だから余計にアズールのあの態度が理解出来ない。
この男に限ったことではないのか。
そもそも自分は主人であるアズール以外の人間と接見してはいけないのか。
アズールの友人であると言ったこの男は、成る程アズールのことをよく知っている様子である。
ならば、無害であるとアズールが了解しているなら、こうしてお茶を飲み会話するくらい問題ないのではないだろうか。
それを確かめようと名を尋ねてみたのだが。
「そのうち分かるよ」
と、体よくはぐらかされてしまった。
首を傾げたシウに軽い会釈をしてノアは彼女の部屋を後にする。
彼が少女を大事にしていることは、あの部屋の清潔さや生活感から見てとれた。
なにより、彼女の姿勢や眼差しの強さから、厭というほど感じた。
ただ、少女自身がそれを理解していない。