幻影-17
かつて、こんな風に感情をぶつけられたことがあっただろうか。
自身の行動にこれほど指摘を受けたことがあっただろうか。
遠い記憶過ぎて、目の前に迫る怒気が圧巻で、まるで思い出せない。
「シウ、ちょっと待って。落ち着いて。興奮剤なんか使ってないはずだけど・・・」
「あんたの!その態度があたしを興奮させるんだ!」
これには、―――爆発的に込み上げた笑いを抑える暇もなかった。
「・・・っなに笑ってるんだよっ」
「だってさ、シウ。シウが凄い口説き文句言うもんだから・・・っは、どこで覚えたの?」
「なっ・・・っあたしはムカつくって言ってるの・・・!」
「いや、分かるよ、分かるけどさ、あははっ」
「もういい!忘れろ!言ったあたしが馬鹿だった!」
「そんなこと言わないでよ、ふはっ、うん、嬉しいよ」
「・・・・っ最低」
「ごめんって。君がそうやって言ってくれるから俺も気が楽なんだ。これは本当に」
ちらりと翡翠色の瞳が自分と宙を行き来する。
戸惑ったように口をつぐんでしまった彼女に、アズールは静かにその手を取って引き寄せた。
「・・・参ったな」
はあ、と溜め息ともつかない息を吐いて、掴んだシウの手を自分の胸元に宛がう。
「ムカつくのが俺のせいなら、俺が熱いのは君のせいだよ」
早鐘は言葉を交わすにつれてまざまざと現れる。
指先から伝わってきた鼓動に、シウは息を飲み下した。