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『秘館物語』
【SM 官能小説】

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『秘館物語』第2話「訪問者」-11


 陽は既に南中を迎えようとしている。積もる話に夢中になって、暑い陽射しに、随分と晒されていると気づいた浩志は、二人を車の中にいざなう。
「さ、乗ってよ。何処かでお昼でもどう?」
「ああ、そうやね。……ワイは、前に乗るから、双海は碧はんと一緒に乗るとええ」
「はい」
 双海が碧と逢えることも楽しみにしていたのは、兵太もよく知っている。それで彼は、荷物を後部座席に落ち着かせた後、双海と碧を並ばせて座らせ、自身は助手席に身を置くことにしたのだ。
(あ……そういえば……)
 ふと、助手席のシートに目を移した浩志は、その部分の色が少し濃くなっていることに気がついた。先ほど、碧を性的に嬲っていた名残が、残っていたのである。
(………)
 また、なんとなく甘ったるい、独特の香りも残っている気がして、浩志は少し落ち着かなくなった。
「坊ちゃん、世話になりますわ」
 幸い、兵太は何も気がつかなかったようである。
 まさか、彼らを待っている間、二人が淫事に耽っているなど想像もつかないであろうから、車中に残るわずかな“性の名残”を嗅ぎ取ることは出来なかったのも無理はない。
「そ、それじゃ、行くよ」
 ハンドルを握る手が、少しばかり汗ばんでいた浩志であった。


「よく、来てくれたね」
 兵太を迎え入れた時、浩志も思いがけないほど志郎は相好を崩していた。それだけ、彼には胸襟を開いているということであろう。
 懐が深いとはいえ、芸術家にはありがちな気難しさを志郎も多分に持っているが、彼が心の底から兵太を歓迎しているということは、虚飾のないその笑みでわかった。
「御世話になりますわ」
「遠慮することはない。存分に、ゆっくりしていってくれたまえ」
 まるで自分から兵太の手荷物を持ちかねないほどである。
 もちろん、館の主にそれをさせるわけにはいかないので、兵太と双海が持っていた荷物は既に望と碧が手にしている。
「ふふふ」
「ど、どうかしましたか?」
 二人が持っている荷物を見て、志郎がわずかに笑声をたてたので、兵太は怪訝に首をかしげた。
「いや。今回は本当に“骨休め”にきてくれたのだなと思ってね」
「?」
「普段の君からは想像もつかないほど、荷物が少ない」
 兵太はフリーライターを生業としている。この館に来る時は執筆の仕事に関することがほとんどだったので、そのときは、愛用のノートPCを始めとして、彼は両肩に抱えてもまだ足りないほど荷物を手にしていた。
「仕事は“抜き”ですわ。双海に、そういう“約束”をしておりましたんで……」
「ほほう」
「何処かに連れて行くにしても、あんまり人手が多いところじゃ双海もおもろないやろうから、この場所と言うことで話が落ち着きましたんや」
「そうか。双海さんに気に入っていただけたということは、とても光栄なことだよ」
 そのまま兵太と志郎は、大広間にあるソファに腰を落ち着ける。浩志もまた、その二人に倣うようにして、少し間を置いた位置にある腰掛に座った。
「ワイは少し、志郎はんと話をするから、双海は先に部屋で休んどってや」
「はい。それでは、画伯。失礼致します」
「ああ。この屋敷にあるものは、なんでも自由に使って構わないからね。何か必要なものがあれば、遠慮なく言ってくれたまえ」
「ありがとうございます」
 軽く頭を下げてから、双海は望と碧に案内をされながら広間を出て行った。


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