投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『秘館物語』
【SM 官能小説】

『秘館物語』の最初へ 『秘館物語』 52 『秘館物語』 54 『秘館物語』の最後へ

『秘館物語』第2話「訪問者」-29


 それにしても、兵太に対する望の言葉遣いはかなりくだけたものになっている。それは、何度も彼がこの館に訪れるうちに、打ち解けてきたことの証であろう。
 もちろん、志郎の前ではそれを改めるが、兵太の意向もあり、普段の交流では堅苦しい言葉遣いは脇に置くようにしていた。
 それだけ、二人は気の置けない友人同士だと言うことである。
「…志郎はんとは、どうなんや?」
 当然、その関係も彼は熟知している。
「話題を反らしたわね。…変わりは、ないわ」
 それに対する望の言葉は、微妙なものであった。
「そうか」
 しかし、兵太はそれ以上の詮索をしなかった。野暮に感じたからだ。
 志郎の話を持ちかけたのは、望の言うとおり、話題を反らす目的もあったが、望の口から志郎の様子を聞く目的もわずかにあった。
 そして彼女が“変わりはない”と言うのであれば、それが何よりの真実であり、それ以上の言葉は必要なかった。
「碧はんは、どうやら坊ちゃんと熱々みたいやな」
「そうね。あの子も、なかなかやるわ」
「まぁ、坊ちゃんにとっちゃ、今は元気の種になっとるから、ええことなんやけど」
「そうね。でも、仕事に支障が出てくるまでになっちゃうと困るんだけど。この前なんてね…」
 棚一段の皿を全て破壊した“新・碧伝説”を望は暴露していた。
「はは、それも相変わらずみたいやな。でも、やで……」
「え?」
「結構、明るうなったと思うんや」
「そうね。それは、そうかも」
「うん」
 本当は、“明るくなった”というよりは、“艶やかになった”と兵太は言いたかったのだが、それを言うとまた望に茶化されそうなのでやめておいた。
(一番変わったのは、碧はんかもしれん)
 浩志の存在が、彼女に変化をもたらしたのであろうが、それは兵太の目には大きな“前進”に思えた。
 自分が“訪問者”としてこの館に来たのは、確かに双海の意向もあったが、それぞれの状況を確かめる意味もある。浩志のこともそうであるし、望と碧の二人の女性もそうだ。
 …そして、志郎のことも例外ではない。
(志郎はんは、何を“遺そう”としとるのか…)
 むしろ、兵太が最も気がかりなのはそのことである。
 “秘館”と称されるこの籠の中で、彼が何を思い、何を形にしていこうとしているのか…。
 それを見届けることも、“訪問者”としてこの館に通いつづける自分の使命だと、兵太はひとり考えているのだった。


 ―第3話「分岐点」に続く―


『秘館物語』の最初へ 『秘館物語』 52 『秘館物語』 54 『秘館物語』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前