THANK YOU!!-7
拓斗の電話など知りもしない瑞稀は、臨海学校の事を思い出しながら恵梨と一緒に部屋に戻ってきた。
優羽、香菜は自分の部屋に戻ったようでもう既に部屋に居なかった。
「とりあえず、どうする?もう寝る?」
「・・どうしよっか。」
臨海学校のことを思い出していた瑞稀は恵梨の問いに応えるのが少し遅れた。
それに気づいた恵梨は優しく声をかけた。「大丈夫か」と。
瑞稀は少し、悲しげな表情を見せながらも頷いて、「思い出した臨海学校の話をしても良い?」と聞いた。断る理由が無い恵梨は「勿論」と言って頷いた。
少し表情を柔らかくした瑞稀はポツリポツリと話した。
「って、ことがあったなって思い出してたんだ」
「・・そんなことがあったんだ。・・にしても校長先生、優しいねー」
「うん。結局、怒られなかったし」
「・・・ねえ、瑞稀。」
笑顔を零した瑞稀に、一緒に笑っていた恵梨が急に真面目な顔をした。
なんだか分からない瑞稀は首を傾げて、「なに?」と聞いた。
恵梨は少し間を置いてから口を開けた。
「優羽ちゃんたちから聞いた時も軽く考えてたんだけど」
「・・何を?」
「その、拓斗くんって人。」
「・・・うん」
「瑞稀が、好きだったんじゃないの・・?」
「・・・・は・・?」
恵梨の言葉に、瑞稀は思考を一瞬停止させた。秒針が一周したところで、なんとか思考回路を復活させて言葉を出す。
「いやいや、無いでしょ。何言ってんの」
「卒業式のあとの話は置いといて、それ以外だとどうしてもそうとしか思えないよ。今聞いた臨海学校の話だって、そうだし」
「な、何をどう聞いたらそうなるの・・!?」
「だって、そんな状況でで先生の言うことも無視して助けに来てくれたって、よっぽど大事な人じゃないと・・。」
「・・・・でも、有り得ないよ」
あの時は深く考えなかったが、今思うと拓斗の行動は少し無謀な気がした。
いくらジュースを買いに行ったとはいえ、どこに居るのかよくわからないのに小さい懐中電灯だけで走り回ったというのは相当な無茶だ。
しかも、先生たちの静止の声も聞かず、結局校長に怒られてしまっていた。
どうして怒られることが分かっていたハズなのにそんな行動をしたのか。
・・まさか・・・。
「・・嘘、だよ。信じらんない。・・だって、卒業式のあと・・」
「勿論、ウチがそう感じただけだから、絶対そうだとは言えないから!ね?」
「・・・うん・・」
信じられない事実に、瑞稀は身体を震わせた。恵梨が慌てて言葉を付け足す。
しかし、それも耳に届いていないようで、生返事しか出来ない。
じゃあ、卒業式のあと。あの言葉は何の意味があったの?何であんなこと言ったの?
そんな言葉が、瑞稀の頭を巡っていた。
ぐるぐるして混乱している瑞稀に、しまったなと思った恵梨が自分の言葉に後悔した。
言わなきゃ良かったと。だが、自分の言葉は間違えっていないんじゃないかと思う。
心当たりがあるから、こんなに悩んでいるんだろう。
それに、優羽たちに聞いた話だって、結果としては「拓斗の行動=瑞稀が好き」しか頭に出てこない。そして、瑞稀も・・。
傍から見ればこんなに想い合っているのに二人の距離はとてつもなく遠い。両片想いとはよく言ったモノだ。
歯がゆさを感じつつも、未だに深く考え込んでいる瑞稀の頭を軽く小突いた。
顔を上げた瑞稀の頬を軽く引っ張った。「いひゃい」と不満を漏らす親友に小さく笑った。
「そんな悩まない。絶対、なんとかなる。今瑞稀は明日の鼓笛フェスに集中しなきゃ。拓斗くんに、好きだって言われた音で旋律を奏でなきゃ。」
「・・・うん!」
恵梨の言葉に、頬を解放された瑞稀は強く、笑顔で頷いた。