投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

THANK YOU!!
【純愛 恋愛小説】

THANK YOU!!の最初へ THANK YOU!! 108 THANK YOU!! 110 THANK YOU!!の最後へ

THANK YOU!!-6


自動販売機がある休憩所に着いた時、電気が復旧したようで明かりが着いた。
そして、拓斗は奥で身体を震わせて座り込んでいる瑞稀を見つけた。

「八神っ!!」

その弱々しい姿を見た拓斗は何も考えられなくなり懐中電灯を投げ出して瑞稀を抱き締めた。やはり、雷で怖くなって動けなかったんだろう。
拓斗の温もりに、強ばっていた身体を駆け巡っていた緊張が解けて涙が溢れた。

「た、・・く、と・・!」
「怖かっただろ・・、もう大丈夫だ」
「っ・・、うんっ・・っ!」
「鈴乃くん!!・・って、え・・」

体育館を飛び出した拓斗のあとを追ってきた先生たちが休憩所に着いた時、目を見開いた。担任である中岡先生は拓斗を呼んだ口を、閉じることが出来なかった。
それもそうだろう。自分の教え子が抱き合っているのだから。
しかも強く呼んだはずなのに、拓斗は聞こえていないのか瑞稀の身体を少し離しても頭を撫でて優しい表情を向けていた。
どう声をかけていいか分からずに立ち尽くす先生たちの間を抜けて一人の初老の男性が優しい表情を見せている拓斗と落ち着いてきた瑞稀に近づいた。

「・・・鈴乃くん、八神くん」

その柔らかな声に、二人はバッと顔を上げた。そして先生たちが居る状況に気がつくと顔を赤くして慌てて離れた。が、拓斗は瑞稀の前に出て庇うような体制になった。

「・・校長、スイマセン、勝手に飛び出して・・でもっ!」

まず最初に謝ったがすぐに状況を説明しようと言葉を続けた拓斗の唇に、校長は人差し指を当てた。そのまま柔らかい笑顔を浮かべるのは、まるで孫と話すようなおじいちゃん。

「分かっていますよ。ただ、校長として言っておかなければいけません。私達教師が動くなと指示を出したときは大人しくしていることですよ。ましてや懐中電灯を奪って飛び出すなど、あまり褒められたものではありません」
「・・・・ハイ」

痛いところを突かれた拓斗はただ静かに言葉に頷いた。その後ろに居る瑞稀は拓斗の行動に驚いたがすぐに自分のせいで怒られているのだと分かり、居た堪れなくなって顔を俯かせて拓斗のシャツをギュッと握り締めた。それに気づいた拓斗は一度だけ校長から視線を外すと自分のシャツを弱く握り締めている瑞稀の左手を優しく握った。
その様子を見た校長はしわを深めて笑みを零した。

「ですが・・男の子としてはよく頑張りましたね」

瑞稀を気遣う拓斗の頭を校長は優しく撫でた。拓斗はその温もりを心地よさそうに受け止める。
次いで瑞稀の頭を撫でて、「怖かったでしょう」と言った。瑞稀はふるふると首を振った。小さな声で、「拓斗が来てくれたから」と呟いた。それを聞いた拓斗は顔を赤くした。
そんな初々しい二人を見て先生たちも怒る気が失せてしまったようで苦笑いをしている。
校長は再び拓斗に向き直ると目を合わせて優しく言った。

「いいですか・・?」



*****


「・・『好きなお姫様を守るのは男の役目。その子が遠くで泣いていたら、傍に行って涙を拭って、笑わせてあげることです。決して泣かせてはいけませんよ・・?』・・」

自室のベッドで、腕で顔を隠し横になりながら呟いた言葉。
6年の臨海学校の時に校長に言われた言葉だった。確か、あの時は瑞稀を助けた直後。だから、心に残っていたのかもしれない。
もう卒業式のあの日から、連絡をとっておらず、今瑞稀が何をしているかも分からなかった。一回だけ、中学入ってすぐに秋乃から電話が来たが内容は散々なモノだった。
秋乃に話したのだろう、まず最初に卒業式の後瑞稀を傷つけたことにグダグダ言われた。
そのあとは告白するのかしないのかハッキリしろと言われ、最低でも誤解だけは解けと言われて一方的に電話を切られた。
秋乃のことだから、拓斗の気持ちは分かっているのだろうがそれを抜きにしても拓斗に非があると思っているのだと嫌でも分かった。
勿論、拓斗本人も深く罪悪感に苛まれていた。あの時にすぐにでも瑞稀のあとを負って誤解を解けば良かったと何度悔やんだことか。
すぐにでも瑞稀の家に行って謝りたい。そう考えた事は既に2桁以上。しかし、もう嫌われてしまったんじゃないかと思う気持ちでなかなか実行に移せないまま1年以上が経過してしまった。
時間が解決してくれるなどと、どこかのチンケな恋愛小説は謳うけども明らかに解決どころか悪化している気さえしてくる。

「・・・八神・・」

いつも見せてくれた瑞稀の笑顔、怪我をして辛さを押し殺せなくなった時の涙、親友を侮辱され本能のまま見せた怒り。そして、誰からかは知らないが自分に好きな人が居ると知って、それを自分に伝えてもう自分に構うなと言った時の切ない、泣きそうな顔。
必死に怒っている表情にしようとして強がる瑞稀に、一瞬自惚れそうになってしまった。
・・・話しがしたい、声が聞きたい。
そう衝動的に思った拓斗は起き上がり、買ってもらったばかりの携帯を取り出した。
瑞稀の携帯番号は入っていないが、自宅の電話番号は入れておいてある。それを画面に出して電話をかけた。
しかし、誰もいない。
丁度、瑞稀は合宿中。叔父は泊まり込みの仕事。祖母は回覧板回し。祖父はベランダで花の手入れ。誰も電話に出られなかった。
そうとは知らない拓斗は暫くコール音を鳴らしていたが諦めて電話を切った。
そして、明日。瑞稀の家に直接行ってみようと決意した。

「・・(このままなんか、嫌だ)」

もう一度ベッドに沈むと、頭の後ろで腕を組んで天井を見上げたあと、目を閉じた。








THANK YOU!!の最初へ THANK YOU!! 108 THANK YOU!! 110 THANK YOU!!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前