THANK YOU!!-3
「・・でも、本当に、ありがとう。足、引っ張ってるのにゴメンなさい」
「だから、気にしてないって。むしろ初めてなのに凄いと思うよ?」
「でも・・みんなの足引っ張ってるし、タイム縮まんないし・・」
「それも瑞稀ちゃんのせいじゃない。みんなも、転ばないようにゆっくりになってるだけだし」
「でも」
部活に来ても、瑞稀は罪悪感が拭えずにずっとこんな感じの会話を続けていた。その度に恵梨は、大丈夫だと言ってくれるのだが。
そろそろ終止符を打とうと、恵梨はまだ言葉を続けようとした瑞稀の言葉を手で制した。
「いいの!ウチとしては、瑞稀ちゃんと組めてラッキーって思ってるし。あまり気乗りしなかった体育祭も、楽しめそうだから」
「・・恵梨ちゃん・・」
「だから、謝らない!絶対。約束」
「う、うん・・」
クラスメイトたちに見せた恵梨の有無を言わさない真剣な瞳に、瑞稀は吸い込まれそうになりながらも頷いた。それを見た恵梨は、よし!と満足気な顔で笑っていた。
瑞稀は、ふと秋乃とは違う新しい友達ができたことに嬉しくなった。
自分の為にここまで言ってくれる人がいることに。
その夜、二人三脚の疲れと部活の疲れが溜まっていた瑞稀は夕ご飯が終わると叔父の部屋でゲームすることなく自室のベッドで休んでいた。
すると、ドアをノックする音。瑞稀が上半身を起き上がらせて返事をするとドアの向こう側から叔父がお風呂が沸いたから入れという催促の言葉。
ベッドから降りて、いつも寝巻きにしているTシャツと短パンを引っ張り出すとドアを開けた。
リビングに行くと叔父がテレビを見て寛いでいた。
この人は会社と家とでは態度が違いすぎるなとため息をついた。
叔父はIT企業会社の人事部長。人を見る目が十二分にある叔父に最適の仕事と言える。
瑞稀は一度だけ叔父に弁当を届けに行ったことがあって、そのときに見た叔父の仕事ぶりに尊敬の念を抱いた。
が、家にいるとゲームオタク。一応、トランペットの師匠でもあるから尊敬はしているのだが。
「瑞稀。最近帰り異常に遅いな」
「んー?あー・・もうすぐ体育祭でしょ?だからクラス競技の練習して、部活も演奏するからその練習で。」
「そうなのか?にしても、本当に吹奏楽入るとはな」
「言ったじゃん。トランペットやりたいって。トランペットしか考えられないよ」
「それにしても、何かしらの選択肢はあったんじゃないのか?」
叔父の更なる問いに、瑞稀は面食らったように一瞬眼を見開いた。
確かに、よく考えたら他の選択肢があったようにも思う。
今まで深く考えなかったが、瑞稀は改めてトランペットにこだわる理由を考えてすぐに首を横に振った。
「楽しすぎて仕方ないんだ、トランペット吹くの。それに、お兄ちゃんを超えたいからね絶対!」
まるで啖呵を切るかのように告げた言葉に、瑞稀は改めて自分がこんなにも闘争心がある人間だと分かって少し嬉しくなった。
それと同時に何も言わなくなった叔父に不安がよぎった。おそるおそる叔父の顔をのぞくと、その顔は瑞稀と似たような顔をしていた。
「分かったよ、いつになるかは分からないけど待ってる。」
「い、いつになるかって何だよー!」
「はいはい、さっさと風呂はいってきてくれ」
ぶつぶつ小さなつぶやきで文句を言いながら風呂場に向かう瑞稀を見ながら、叔父は微笑みを見せていた。