神官V-1
食事のあと、九条は中庭から空を見上げていた。この世界を作り上げているのは幼い少女だった。
彼女に万が一があるわけがないと思いながらも、この世界の危機があったことは人々の中でも言い伝えられてきた。
「九条?」
今日出会ったばかりとは思えない聞きなれた心地よい彼女の声に私は振り返った。
「お風呂っていうんだよね?浴場の場所教えたかなって思って・・・」
「・・・あぁ、お願いしてもいいかな」
彼女は私たちに敬語を使わぬようにと強く願っていた。仙水はその言葉使いが馴染んでいるからと直すつもりはないらしい。
視線の先には大和が待っていた。
「皆で入ろう?」
葵は目を輝かせて足取り軽く仙水を呼びに行った。
「皆で・・・・?」
大和も浴場の場所を教えられるだけかと思っていたようだ。その顔にはみるみる赤みが広がり、九条と目が合うとぱっと顔を背けた。
仙水の手を引いた葵はそれぞれの衣服を抱え、三人を案内した。
「あっ!!
浴場も大きくなってる・・・」
神官が迎えられたことにより、王宮はその形を変えていた。まるでひとつの意志があるような動きだったが、おそらく"世界の意志"によるものだろう。
「せっかく皆と再会できて・・・神官になってくれた記念の日だもの・・・裸の付き合いといきますか!!」
まるで大和の町で古くから伝わる言葉のようだった。くすくす笑う大和は、
「なるほどっ!!
そういうことなら喜んで!!」
格差の感じさせない葵の行動や言動は好ましいものだった。美しい翼が白い肌によく映えていた。
ひらひらと足取り軽く中へと入っていく彼女を見て、三人の神官たちも衣服を脱ぎ始めた。
すでに湯に浸かっている葵は赤い顔で私たちを手招きしている。体を洗うのも、そもそも王宮に流れる湯には浄化作用があるためどちらでも良いのだという。
葵はそれぞれに近づき、優しく手を握りしめた。
「・・・これからもよろしくね」
これからも、という言葉に三人は違和感はなかった。かすかな記憶の中に彼女の姿が刻まれている。
私たちは彼女を見つめて頷き、絶対にこの手を離さないと私は誓った。