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翼の記憶
【ファンタジー 恋愛小説】

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世界の意志-1

これは【翼の記憶】より遥か数千年前の人界の物語。人界が属する宇宙が誕生してから間もないため、気候は安定せず、あらゆる災害に見舞われていた。







人類は栄えるほど発展しておらず、動物や植物のほうが圧倒的に多い時代だ。







大人たちは自分達が生きていくだけで精一杯な中、子供を置き去りにして安全な場所へ移住してしまうこともしばしばだった。







そして・・・
のちに人界の王となるこの小さな赤ん坊、葵も両親に捨てられた子供のひとりだった。







『ごめんなさい葵・・・っ・・・
こんなパパとママを許して・・・・・っ!!』






(ママ・・・?どこにいくの?パパ・・・?)





母親の手が離れると、赤ん坊は火が付いたように泣き出した。父親は涙をこらえてもう一度小さな我が子を力強く抱きしめた。







『神様、どうか葵をお守りください・・・っ!!悪いのは私たちなのです・・・!!』







(パパ・・・・・)







母親は最後まで小さな娘から目を離すことが出来ず、大粒の涙を流しながらその名を叫んでいる。






『葵・・・っ!!
愛しているわ・・・・・葵っ・・・・!!!!!』







(私も・・・パパ・・・・ママ・・・・・大好き・・・・・)






大きな木の根元に置き去りにされた赤ん坊の耳には、同じように捨てられた子供たちの泣き声が響いた。悲しくて・・・心細くて・・・・。次第に雨が降り始め、天が涙を流しているようだった。






冷たい雨と、空腹が徐々に葵の体力を奪っていく。泣き叫ぶことも出来ず、赤ん坊は諦めたように目を閉じた。







(次に目を覚ましたら・・・皆、幸せになれるかな・・・・・悲しみのない美し・・・い・・・・・愛にあふれた・・・・・そんな・・・世界に・・・・)







絶望と、未来への希望を抱いた葵は誰を恨むことなく、その小さな命を手放そうとしていた。





と、その時。
天と地から光の柱が立ち、葵の傍に何かが勢いよく落下してきた。そしてまばゆい輝きを秘めたそれは赤ん坊を優しく包み・・・次の瞬間に赤ん坊をどこかへ連れ去ってしまった。






しばらくして目を覚ました葵は空腹も感じず、体の冷えもない。視界の端に見えた美しい杖は優しく輝き、その心地よさに葵は再度目を閉じた。




夢うつつの中で、姿なき者の声がする。






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