愛撫-8
少女の申し出にアズールという青年は少々意表を突かれた。
一変して真剣な瞳になった少女は薄い唇をきゅっと結びアズールを見下ろしてくる。
「君の命の限り、と言ったことを気にしてるのか?それなら・・・」
「違う。死にたいの、早く」
「おかしなことを言うね。ならどうして今まで生きてきたの?死にたいならいくらでも出来たはずだろう?」
「理由がなかったから」
「理由?」
「そう。あんたに拷問されればやっと死ぬ理由が出来る。でも途中で死なれちゃ困るんだろ?だから終わったら、その場であたしを殺してよ」
ふ、っと溢れた笑みは今までの皮肉めいたどの笑みよりも柔らかく、そして儚げであった。
アズールはそれを見詰め、溜息に似た笑みを釣られて溢す。
「分かった」
それだけを告げ、組まれた足に両手を添えた。
少女が僅かに顎を引くと疎らに切り揃えられた銀の細い髪が頬に掛かり、翡翠色の瞳を隠す。
「アズール・・・」
「ん?」
「何だか、・・・・・熱い」
「ああ、やっと効いてきたんだね」
「な、に?」
「さっき君に飲ませた薬だよ。気分はどう?」
「じっ、けん・・・?」
「そうだよ。だから俺の聞いたことには正確に答えるんだ、分かったね?」
「・・・ん、分かっ・・」
会話で気が紛れていたのか、意識してしまえば急速に上がっていく鼓動に呼吸が途切れる。