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溺れる爪痕
【ファンタジー 官能小説】

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愛撫-7

 くてんと首を傾げた青年の顎に膝を打ち付けてやりたい衝動に駆られた。

それほどまでに少女にとって彼は理解し難く、その醸し出された生易しさはますます彼女を苛立たせる。

「あんたがムカつく奴だってことはよく分かった」

「はは、酷いなあ」

「大体さ、奴隷のあたしがこんな言葉使いでご主人様を見下ろしてて、あんた何とも思わないわけ?」

少女とは真逆の笑みを顔に貼りつけたまま、青年は「うーん?」と呑気そうに灰色の天井を仰ぐ。

「俺は別に、仕事に支障がなければ構わないけど」

そう言うとまた灰褐色の瞳に少女を映し、瞳よりも深く暗い色の髪は顔の横でサラリと揺れる。

「君は奴隷じゃないし、俺はご主人様じゃない」

「じゃあ何とお呼びすれば?」

鼻で笑った少女は青年の手を払い足を組む。

いっそ言葉もなく虐げてこの身も心も壊して支配してくれた方が清々するというものだ。

諦めた自我を保つことなど惨めでしかないのだから。

「俺はアズールでいい。君の名前は?」

「名前なんてないよ」

「じゃあまず名前を付けないとね」

「ねえ、アズール。あたしを牢に帰すことはしないって言ったよね」

「ああ、約束する。君が俺から逃げたりしない限りね」

「逃げたりしない。誓う。そうしたら、あたしの望みを一つ聞いてくれますか?」

「君の望み?」

「その実験が終わったら、あたしの役目が尽きたら、あたしを殺して」


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