大切な何かのために-1
何者かが妖しく光るカタナの切っ先を葵に向けて突進してきた。
「・・・っ!!!」
あまりの速さに葵は動くことが出来なかった。次にくる痛みを覚悟してかたく目を閉じると・・・
「・・・くっ!!」
鈍い音と共に聞こえたのは・・・あの紫の髪の青年の苦しそうなうめき声だった。
「きゃあああああっ!!」
大和の異変に気が付いた周りの人々から悲鳴があがる。彼を刺したのは先程みた放火魔の男だった・・・。
男は正気を失ったかのような虚ろな目をしており、その手には大和の血にぬれたカタナが握りしめられていた。
「ヒャーッハッハハッハ!!!
燃えろ・・・燃えろ・・・燃えろぉぉおっ!!!真っ赤に燃えてしまええぇっ!!!」
そして森へと逃げた彼の先には・・・
灯篭が置いてあり、その灯篭を男は勢いよく蹴った。
「あいつ・・・っ!!森を燃やす気かっっ!?」
大和は刺された脇腹を抑え、苦しそうに立ちあがった。男を追いかけた人々は、たちまち燃え広がった火に逃げ惑っている。
「大変だっ!!森が・・・っ!!!」
背後には燃えさかる町並み・・・、目の前には火の手があがった大きな森・・・・そしてこの川の下流には滝が・・・・大和は逃げ場のないこの状況に愕然とした。
「川を上るにも・・・あまりにも足場が悪すぎる・・・一体どうしたら・・・・・っ!!」
「大丈夫かっ!?しっかりしろ大和・・・っ!!」
数人の男が大和へと駆け寄り、彼を支えている。そしてその様子をみた人々の顔には絶望が広がっていった・・・。
「・・・・・・」
葵は苦しそうな大和の背後に立ち、癒しの光を集めた手で彼の傷口へそっと触れた。
「・・・・え?」
柔らかな光が視界に入り、痛みが徐々に消えていく・・・。あてられている手の主の顔をみて、さらに驚いた。
「お嬢さん・・・一体なにを・・・・」
彼を支えている男たちも大和の深い傷が消えていく様と、葵の顔を見比べて目を大きく見開き、あまりの驚きに声を出せずにいた。
「あなたの心の強さ・・・しっかり見させていただきました。ありがとう・・・私のために・・・・」
葵は彼らから一歩離れると、右手をかざして金色の光の中から王にしか扱えぬ杖を召喚した。