THANK YOU!!-5
卒業式が終わり、在校生が作ってくれた花のアーチをくぐった6年は校庭で思い思いに過ごしていた。
写真を取り合う人、お世話になった先生と話す人、泣きあって卒業を喜ぶ人。
そんな今日一日だけの風景を上、自分たちが一年間過ごしてきた教室の窓から見下ろしているのは、瑞稀。
その隣には、親友となった秋乃。
「・・・楽しそうだね」
「・・そうだね。」
「・・もう、これで最後だもんね」
「・・うん」
珍しく、秋乃から口を開いた。一方の瑞稀は簡単な相槌。
先ほど瑞稀から昨日の話を聞いた秋乃はこればかりは仕方ないと想い、何も言わないことにした。
「・・・さて。ウチ、そろそろ帰ろうかな。」
「・・そっか。お疲れ、秋乃」
「瑞稀も、お疲れ。・・・ありがとね、一年間」
「・・・こっちこそ。ありがとう。」
お互い、笑顔になった。そして、ハイタッチをした。
この一年。色んなことがあって、大分絆が強くなった。
お互いにお互いを必要とした。そのことが、この二人の笑顔に溢れていた。
近くに置いてあった自分の荷物を持った秋乃は手を振って、教室を出た。
それを、見送った瑞稀は教室の扉が完全に閉まるのと同時に、窓を背中にして寄りかかった。
視線だけを、外に向ける。
ちらほらと帰り始めている生徒が多く、校庭にはさっきまでの賑やかさがなかった。
暫くそれを見つめていたが、式から結構な時間が経っていることを確認した瑞稀は近くの机に置いてあった卒業証書が入った筒を手にした。
「・・・桜、まだ咲かないか・・」
窓から見える大きな一本桜を見下ろす。
6年間見てきたその木は、まだ花を咲かせていなかった。
多分、瑞稀が中学に上がる時には満開になるであろう。
そういえば。
「・・あの桜を見ていたから、拓斗に話しかけられたんだよね」
今から、もう2年も前。記憶の底にある出逢いの時。
懐かしいなぁと思いながら、瑞稀は窓から身体を離した。
そして、秋乃が出ていった扉に向かって歩きだそうとした瞬間、もう一つの教室の扉が大きく開かれた。