投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

THANK YOU!!
【純愛 恋愛小説】

THANK YOU!!の最初へ THANK YOU!! 84 THANK YOU!! 86 THANK YOU!!の最後へ

THANK YOU!!-6



「・・・!!・・拓斗」

瑞稀が驚いて、扉を見ると、そこには扉を開けた張本人である拓斗の姿。
市販のブレザーに卒業証書が入った筒を持っていることからして、まだ家に帰っていなかったんだろう。
拓斗は、瑞稀が驚いているのにも気にせず、そのまま真っ直ぐ窓に向かって歩いてきた。
机5個分の距離まで来た拓斗に、視線をなかなか逸らせない瑞稀は息を呑んだ。
まさかこんな状況になるなんて思ってなかったからだ。

教室に、静寂が生まれる。
その静かさにいたたまれなくなって、口を開いたのは瑞稀の方だった。


「・・私、もう帰るね。じゃあね」

そう声をかけて早足で扉まで歩き、その引き戸に手をかけようとした瞬間。

「足のキズ・・残れば良かったのにな」

そんな言葉が聞こえてきた。
瑞稀は弾かれたようにバッと振り返った。ハッキリと、苛立ちを感じながら。

「・・・どういう意味」
「・・そのままの意味。一学期に怪我した左足のキズ、残ればよかったのにって」
「・・・・・は・・?」

その言葉に、瑞稀は言いようのない怒りが込み上げてきた。
あのケガは、自分にとって自分を暴走させた忌々しいものにしかない。やっと、半年以上かけて消えたというのに。
ましてや瑞稀も女の子。短パンを好む瑞稀にとって、あの左足のキズは目立ってしまって仕方ないのだ。
どれだけ、周囲から変な目で見られたと思っているのか。

「・・そしたら、俺は・・」
「ふざけんな!私が、どんな気持ちだったか・・わかんないの・・!?」

拓斗の言葉を遮って、大声をだした。拓斗は、驚いて口を閉ざした。
辛かった、キズのことを言われることよりこれ以上大好きな人からそんな言葉を聞くことが。

「・・・・帰るから。」
「あ、おい、八神!」

自分が悪いと思ってない拓斗が余計苛立った瑞稀は今度こそ引き戸に手をかけて、力をいれた。まだ言葉を続けようとする拓斗に瑞稀は振り返ることもせずに言った。

「・・今まで、傍にいてくれてありがと。もう中学は別なんだから、面倒見てくれなくて良いよ。」
「・・・・・何、言ってんだよ」
「私の傍に居させられて苛立ってるの分かったから。だから、そういうこというんでしょ?」
「・・・っ、そんな訳ねえだろ!」
「もう良いよ!!」

そう声を荒げて、瑞稀は振り返った。怒ってる顔をしようとしながら、続けた。
とても、今にも泣き出しそうな悲しげな顔で。
その顔を見た拓斗は、息を呑んだ。

「・・拓斗は、優しいから。自分が好きな人と一緒に居たくても、ケガした私をほっとけなかったんだよね・・?だから今まで傍に居てくれただけ・・でも、もう良いから。自分の、好きな人の傍に居てよ」

そう言い切った瑞稀は、扉を勢い良く開けて教室を飛び出していった。言われていることに理解が遅れた拓斗が、我に返った瞬間だった。
追いかけようにも、もう昇降口まで降りているだろう。
それに、今の拓斗には瑞稀を追いかけるなんて出来なかった。
もし、追いついたとして、何を言えばいい?傷つけるようなことを言い出したのは自分だ。
だけど・・・瑞稀の言葉には、反論出来たはずだった。でも、出来なかった。あんな顔見せられたら。

「・・・キズが、残ってたら・・俺が一生責任取る・・って・・言うつもりだったのに・・くそっ!!」

大好きで、大切な人に言うつもりだった言葉を空気に吐き出した拓斗は、自分の不器用さに腹が立ち、窓を拳で殴った。


全速力で、教室を飛び出した瑞稀は昇降口まで降りたところで立ち止まった。
息を整えながら、その場に座り込んだ。本当は、もっと違う事を言いたかった。
でも、それが出来なかった自分が悔しくて、悔しくて、堪らなかった。八つ当たりもいいとこだ。瑞稀は、止めることもせずに涙を流し続けた。


3月15日。瑞稀たち6年生は小学校を卒業した・・。


THANK YOU!!の最初へ THANK YOU!! 84 THANK YOU!! 86 THANK YOU!!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前