パニック after パニック-2
船室には、さっきと同じくバカップルと、復活の兆しが見えたユーコとトモちゃんしかいなかった。あたしはなんだかホッとして手に持ったお茶を二人に手渡した。お茶、少しぬるくなってたと思う。
それでも二人は「ありがとう」と、言いながら美味しそうにそのお茶を飲みだしたので少し安心した。
そこへ、朝食を食べに出ていたミヤちんが帰ってきた。
「ナ〜ッちゃん♪見〜た〜で〜」
ミヤちんは開口一番に、ニヤニヤ笑いながら言った。
ドキッ!
「な、なんのこと?」
心当たりの有るあたしは、恐る恐る聞き返した。
「昨日から様子がおかしいと思ってたんやけど、あんたあの人と楽しそうにしゃべってたなあ」
「えっナニナニ?」
好奇心が旺盛のトモちゃんが、早速食い付いた。
「あの人って誰のことなん」
こちらも好奇心が膨らむユーコも聞いてきた。
「あ、あんた、どこで見てたん?」
あたしはどこの部分が見られていたのか気になり、さらに聞きかえした。
「たまたま横を通っただけやん。でもナッちゃん、せっかく誘われたのに逃げたらアカンやんか」
ミヤちんの言葉はさらに二人を刺激した。
「え〜!何よ何よ、誘われたって誰に?」
普段からみんなの保護者役のトモちゃんは、さらに食いついてきた。
「ナッちゃん凄いやん、あんたにもついに春が来たんか」
彼氏のいるユーコは余裕気味だ。
「う〜、あんなカッコ悪いとこ見られたんか〜、それもミヤちんに〜」
あたしは愕然とした。
「『ミヤちんに〜』は余計や。そんなん言うんやったらコッチも言うたろ。あんなあ、ナッちゃんがそこに居った4人の中の1人と楽しそうにしゃべってたんやで」
「ゲッ!ホンマ?」
ユーコはあからさまにイヤな顔をした。
ゲッ!って何よ!
「どの人なん?」
トモちゃんも恐る恐る聞いてきた。
言うな言うな…
「サングラス掛けてる人居ったやろ。その人や」
あちゃ〜、言わなくてもいいのに…
「居ったなあ、でもあんまり見てないから、どんな顔してたか良くわからんわ」
「あたしも見てないなあ。ナッちゃんのために、その人らが帰ってきたら観察せなな」
母性の強いトモちゃんは、こんな時には積極的になる。
「もう、止めてや〜、あたしは別に何とも思ってないねんからね」
「そう言うても楽しそうに話してたんやろ?あんたの保護者としては気になるやんか」
「全然楽しくないって、だいたい部屋でもサングラス掛けてるなんて変やわ」
あたしはさっきうろたえたことが思い出されて、少し腹がたってきた。
「チョットくらいカッコよく見えても、あんなんやったら自分に自信が無いんとちがう」
さらにあたしは腹立ち紛れに、思った事を口にした。
「あっ!ナッちゃん、しっ、しっ!」
「何が『しっ、しっ!』よ。あんたとこのチコみたいにせんといて!あんたらもおかしいと思うやろ。昨日なんて寝てる時もず〜っとサングラス掛けててんで」
「違う後ろ後ろ」
ミヤちんは慌ててそう言いながら、あたしの後を指差した。
へっ?後ろ?うっそ―――!あたしはようやくミヤちんのその仕草の意味を理解した。
「ナツ、お前チョットくらいはカッコええらしいで」
ドッキ――ン!
「お前逃げられた言うて嘆いてたけど、寝てる間ず〜っと見られてたんやったら少しは脈が有るかもしれんで」
うっ、そんなに長く見てない…
「この子か?可愛い子やんか。がんばれナツ!」
恐る恐る振り返ると、4人の男が部屋の入口で立っていた。そしてナツと呼ばれた噂の当人は照れ笑いを浮かべていた。
「ワア―――!」
あたしの頭はパニックになった。そして、その4人の横をすり抜け部屋から飛び出してしまった。
ダメだ、ドンドンおかしな方向に行ってしまう…