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私の夏
【青春 恋愛小説】

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パニック after パニック-1

 しばらく目の前を泳いでいた気まぐれなイルカ達は、他に興味をそそられたのか、いつしか見えなくなっていた。

「あ〜あ、行っちゃった…」

「でも良かったなあ。あんなのが普通に見れたなんてメチャラッキーやんな」

「ええ、ホントに良かったです。イルカ達可愛かった〜」

「ホンマホンマ、最初このちっちゃい船を見た時にはゲンナリしたけど、今のが見れたからチャラやな」

「そうですか?あたしは昨日の船酔い分ではちょっと足りないですよ」

 イルカは可愛かったけど、あの苦しさの代償にはチョット遠い。

「まだ足らんて?それやったら昨日の夜景見てたらチャラやったかもな」

「でも昨日は夜景を見る気分じゃなかったんですよ。でも今日はちゃんと見ますよ」

「無理やな」

 男は素っ気なく言った。

 何よこの男、なんでそんなに突き放す。

「どうしてですか?」

 あたしも挑戦的な態度で聞き返した。

「周り見てみ、街なんてないやんか。今日はどんなに目を皿にしても夜景は見えへんで」

 あたしは言われるまま、ぐるりと周りを見渡した。

「あっ…、た、確かに…」

 ホント、何にも無いわ…

「でも、そんなに夜景って綺麗でした?」

「メチャ綺麗やったで」

「六甲の夜景より?」

「エエ勝負かな、でも海から見る分ポイント高いかもな」

「う〜、残念です」

 せっかくの旅行なのにもっと貪欲に楽しまなくちゃ。

「そんな残念がらんでエエよ」

 男は素っ気なく言ったが、さっきと違い少しだけ優しげだった。なのであたしの2回目の
「どうしてですか?」は、普通に素直に聞き返した。

「星や」

「星?」

 こいつ、何言うてんのやろ?

「そう星、今日は街灯りが邪魔せえへんから、普段見られへんくらいに星が綺麗に見れそうやで」

 なるほど、それは言えてるかも!

「そうですね。夜景を見るよりいいかもしれませんね」

「普段見られへん星が一杯見れたらそれだけで嬉しいやんな。それも船の上やなんて最高にロマンチックやな」

「そ、そうかも知れませんね」

 その男の雰囲気から程遠い単語が飛び出したので、少し面喰ってしまった。そう言えば『星の王子さま』読んでたっけ?

「一緒に見よか?」

「えっ…」

 い、今、この男何を言った?さらりと…

 イルカの高揚感が故に、よく知らない男と普通に会話を交わしていたけど、今の男の一言であたしは素に戻ってしまった。そしてその一瞬後には今の状況を認識し、かなりうろたえてしまった。

「えっとえっと、そ、そろそろ戻らなくっちゃ」

 そう言って、手に取ろうとした自分の飲みかけのお茶は倒すし、トモちゃんたちのお茶は手に着かずに落っことしてしまう。挙句の果てにはそれを拾ってくれた男の手から奪い取るようにして慌ててその場を去ってしまったのだ。

 はあぁ…。あたしってなんだかカッコ悪い。でも何であんな趣味じゃないヤツにドキドキしてうろたえたんだろう。

 いつもサングラス掛けて粋がってるヤツは、全くあたしのタイプじゃないのになあ。

 なんでだろ?

 やっぱりアレだ!イルカと星のせいだ。あの雰囲気とのギャップで乙女心が麻痺して無防備にされたんだ。無防備になったところに甘い誘いの言葉を掛けるなんてずるい!あ〜あ、なんだかあたしだけうろたえてバカみたいじゃない。そんなことを考えながら船室に戻った。



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