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私の夏
【青春 恋愛小説】

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終章-1

「ただいま〜」

「あら、ナッちゃんお帰り。今日は遅かったんやね」

「もう直ぐ引退試合やからね。みんな張り切ってるねん」

「スポーツに打ち込めるのも今の内やから頑張りなさいね」

「引退したら即受験勉強なんや〜、憂鬱だ」

「後悔しないようにね」

「はいはい。ねえねえ、それよりもおかあさん、聞いてくれる」

「なになに、どんなこと?」

「今日ね、男バスの後輩から告白されてん」

「あらま、どんな子なの?」

「時期キャプテンのカッコイイ子やで。そう言えばどっかに写メ有ったなあ、え〜とえ〜と、あ、この子」

「あらホント、カッコいい子やね。ナッちゃんはこの子のことをどう思ってるん?」

「いい子やねんけど、年下やからやっぱり頼りなく感じるんやなあ」

「で、お姉さんのナッちゃんはどうするつもりなん?」

「う〜ん、今日の今日まで年下って恋愛対象に考えたことも無かったからなあ。実際はようわからんねん」

「そうやねえ、イキナリは戸惑うかな」

「取りあえず、考えてみようかな。お母さんは年下ってどう思う?」

「ナッちゃんにとって、その子がホントに信頼に足る子なら年齢は関係無いと思うな。じっくり考えて答えを出しなさい。でも受験のことも忘れたらアカンよ」

「じっくりかあ」

「そう、大事なのは自分の心の声を素直に聞くこと」

「心の声ねぇ。あっ、メール!うわっ、うわっ!どうしよう?その後輩からやわ」

「焦らずにね、その子とはこれからも会えるんやからね」

「了解!あっ、この事はお父さんには内緒だよ」

「はいはい、そんなこと聞いたらお父さん卒倒しちゃうしね」

 まだまだ会う機会も有るし、良いところも、悪いところも、これからも一杯探せるんだから…。 

 焦らないでね、夏響。




 携帯電話の無い頃の恋愛とは不便なもんだ。

 あの旅行でナツくんの写真はあたしのアルバムに一枚も無い。携帯電話が普及している現在の恋愛だったら、写メの画像なんかで何枚か残ってるんでしょうけど、そんな手軽なモノが無い時代のことなので仕方がない。

 でも、あたしの脳裏に焼きついた彼の画像は、いつでも鮮明であの頃のままで、いつまでも可愛い。ホントは多少の幻想もあるかもね。



 携帯電話の無い頃の恋愛とは不便なもんだ。 

 恋が芽生えた時の連絡先の交換も、携帯電話のアドレス交換みたいにスマートにいかないし、芽生えた恋を育てるのにも一苦労だ。なんてったって、個人用の電話を持つなんて夢のまた夢の頃。



 携帯電話の無い頃の恋愛とは不便なもんだ。 

 待ち合わせの時間に相手が来なくてヤキモキしたり、『ゴメン』の言葉を伝える術は携帯電話のメール程手軽じゃない。相手の家に電話して呼び出して、そして自分の声で気持ちを伝えるんだもんな。そんな面倒な過程を経て自分から謝るなんて中々踏ん切りがつかないよね。まあ、あたしの場合は殆ど相手から掛ってきたんだけど。



『タオル濡らしてきて』

「あれは純粋な少年をたぶらかす性悪魔女の強要呪文やったんや」

 最初の言葉が魔法となって、出会ってからず〜っとあたしの言うことを聞く羽目になったそうだ。あたしの夢見がちな伴侶は、折に触れてこんな事を言っている。

 そんなワケあるか!それに昔言ってたことと変わってるぞ!

 まあ、確かに大学に進学したし、小さいながらにも希望の会社に就職もした。お義父さんもいまだに現役で頑張っている。まさしくあたしの言ったとおりになった。

 だからあたしは彼の言葉を笑って聞き流してあげるの。素直な彼に免じてね。


 ウエディングドレスを着た日、あたしは新たに魔法の言葉を唱えた。あれから随分経ったけど、これもしっかり効いているみたいね。


『幸せにしてね』だったよね?

 あたしのナツくん♪

 初めて会ったときからず〜っと大好きだよ!

 あたしの心が叫んだ!

 おしまい


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