THANK YOU!!-5
「じゃあ、秋乃ちゃん、呼んでねー」
千晴が自分の教室に入ったのを見ると、瑞稀と秋乃も自分たちの教室に入った。
二人が自分たちの席にランドセルを置いて、前の席を見やる。
すると、ちょうど、拓斗が菜美に宿題の一問を教え終わったようだった。
瑞稀たちを一番最初に見つけたのは、菜美。
だが、すぐに視線をずらし、拓斗と喋り始める。
その様子を見せつけられた瑞稀は拓斗に声をかけるのを躊躇った。
だが、
「瑞稀。大丈夫だから、行ってきな」
「・・秋乃・・」
秋乃が軽く背中を叩いた。
その表情は、とても自信満々で・・まるで、難問の答えが自分の答えと同じだと出張する学者のように・・。
その顔を見た瑞稀は息を大きく吸うと、肩の力を抜いた。
「す、鈴乃・・。」
「・・!八神?」
「あの・・えっと・・ちょっと、いい、かな?」
頭がぐるぐるしていて、良い誘い方が思いつかない。
こういう時にマンガから引用出来ればいいのにと思う。
そんないつもと違う瑞稀の様子に、用件が分かった拓斗は立ち上がった。
「良いよ。とりあえず、屋上にでも行くか。」
「あ、うん。」
「・・あ・・」
拓斗が立ち上がった時、菜美から声が漏れた。
だが、その心は不安でいっぱいだった。
ガラッと教室の扉を開けた拓斗の後に続く瑞稀。
その表情はとても緊張していた。
「・・・・」
「・・告白じゃないよ」
「え?」
複雑な表情を浮かべて見送った菜美に、秋乃が声をかける。
「でも、それよりももっと大事で・・二人の関係を縮めることが出来る。」
「・・!!!」
「言っとくけど、これは瑞稀が珍しく素直になって、自分の気持ちで言おうと思って行動したことだから・・邪魔させないから。」
「・・・何で、いちいち私に言うの?」
菜美はイライラしていた。
この転校生も調子に乗っている。
瑞稀の親友面して、なんでも見通すかのように振舞って。
菜美は思わず、秋乃を睨んだ。
だが、秋乃は怯まなかった。
「おー怖。いつも、そんな目で瑞稀を睨んでたんだ。でも、残念。全然怖くないや。」
「・・」
「ウチが怖いと思うのは・・・」
そこで、言葉を切ると秋乃は顔を近づけた。そして、机をバンっと叩いた。
その音に驚いたクラスメイトたちが二人に視線を送る。
「人を閉じ込めて怪我させといて平気な顔して睨んでる奴だよ・・!!」
「・・・・!」
小声で言った為、クラスメイトには聞こえていないだろう。
だが、秋乃の顔が殺気に溢れているので、異常な事態じゃないかと思っているだろう。
その証拠に、秋乃の顔を見たクラスメイトたちは、身を固まらせている。
机から離れた秋乃は、菜美を見下ろす。
菜美も、負けるかという勢いで、睨む。
すると、タイミングよく、拓斗が開けたままにした教室の扉から千晴が顔を覗き込ませた。
秋乃がなかなか呼びにこないので心配になったというところだ。
呼び掛けに気づいた秋乃は、菜美をもう一度一瞥すると、教室を出た。
「秋乃ちゃん。大丈夫・・?」
「うん。ちょっと、溜まってたのが爆発した。ゴメン。」
「いや・・・」
千晴はここまで殺気溢れる表情の人間を見たことがない。同じ小学生だと思えない。
鳥肌が、立った。
そんな千晴に気づいていない秋乃は、いつもの表情に戻った。
「瑞稀たち、屋上に行ったから、もういっこの扉から入って聴きに行こう」
「あ、うん。そうだね」
二人は、瑞稀たちが向かった方とは逆の、屋上に向かう扉に向かった。