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リーマックス
【SF 官能小説】

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カレン-5

記者達やTV局の関係者が病院に押し寄せていた。
鏑医院の院長と整形外科・内科の主任医師が正面テーブルに座っている。
院長の経過説明では、患者十代女子A子さんは慢性腎臓病のステージ5で透析の処置をしなければならない状態だった。
また重度の脊椎側わん症で手術の必要があったのだ。
それが急に体調がよくなって一時外泊を許可したところ、戻って来てから体が順調に回復し、各検査も異常なしという状態になったとのこと。
その後、質疑応答があった。

「あの、轟日報の山根ですが、そういう例は他にもあるのですか?」

「どちらの症例についてもありません。
但し医師が確認できない事例としていわゆる奇跡とかいう類の出来事ではあるのかもしれません。」
「テレビ大和の大和田です。
そのA子さんは外泊したときに何か別の治療を受けたとか言いましたか?
それとも全く何も無い状態で自然に治ったんですか?」

院長はそのとき、他の二人の主任医師と顔を見合わせた。そして重い口を開いた。

「あのう、その患者の言うには、ある人から薬をもらったというのです。
それを飲んだら眠くなって3日間眠り続け目が覚めた辺りからどんどん良くなって行ったというのです。」
「では・・その薬の名前は?」
「リーマックスと言ってました。
でも、そういう名前の薬は私達も聞いたことがありません。」
「あのう・・リーマックスって、ラテン語でナメクジのことを言うのじゃないですか?」

そういう女性記者がいた。彼女は周囲の目を気にして照れ笑いをした。

「あ・・あの・・すみません。週刊科学リサーチの志田と言います。
たまたまナメクジの特集をやったことがありまして、確かラテン語でリーマックスといってたと思ったものですから・・。
でも、ナメクジだったら結核の薬・せきどめや喘息の薬になるとか、ナメクジ油がマムシに噛まれた傷に塗ったら治ったとかいう話を聞いたことがありますが、化学的に立証されてはいないんですよ。
まして、透析が必要な患者の腎臓病が全快するなんてのは、私も初耳です。
あ、脊椎側わん症も治ったんでしたっけ。
ところで、そのリーマックスというのは特殊なナメクジなんでしょうか?」

院長は少しいらいらした様子で、突き放した。

「何度も言いますが、そういう薬は聞いたことがないのでコメントしようがありません。」

志田は肩をすくめて、そこから退場した。
周りの記者に愛想笑いしながら頭を下げながら出て行く。
そんな志田の背後から声をかけた女がいた。
品の良い年老いた女性だった。

「もし、あなた・・少しお時間がいただけますか?」
「はい・・?私になにか?」
「リーマックスというのはナメクジのことではないのですよ」
「えっ?どうして、あなたがご存知なんですか?」
「ですからお時間が頂けますか?お忙しいのなら別に構いませんが・・」

志田はその老婦人を見て深々とお辞儀をした。

「是非・・お話を伺わせてください。」

病院の近くのカフェの片隅で二人は向かい合って座っていた。
老婦人は名乗った。
「私は絢波佳乃と申します。
実は私、昔リーマックスを見たことがあるのでございますよ。
私はまだ若い娘でしたが、当時不治の病とされていた肺結核にかかり、明日をも知れぬ命だったのです。
そのときにリーマックスが現れて病気を治してくれたのです。」
「今・・リーマックスが現れた・・と言いましたね?
リーマックスを持った人が現れたの間違いですよね。」
「いいえ、リーマックスは薬の名前じゃなくて、人間に良く似た天使のような存在なんです。
きっと、さきほどのA子さんは誰にも信じてもらえないと思ってそういう名前の薬だと仰ったのでしょうね。」
「ではリーマックスは人間に似た形のものなんですか?どんな様子をしていました?」
「それが、顔立ちが整っていたため、思い出しづらいお顔でしたが、確かご年配の男性の姿をしていました。
その方は私の病気を治してあげると仰って、私を強く抱きしめると体が光りはじめて、私は天国に上るような良い心持になり、体を離されたときはぐったりして3日間も眠り続けてしまいました。
その方はずっと私について下さいましたが、何故かいつの間にか年若い男性の姿になっておられました。
顔つきも少し以前とは違うようになっておられました。
その方は自分のことを古代ローマ人はリーマックスと呼んでいたと、そう私に教えて下さいました。」
「では絢波さんは到底死ぬ運命だったところを、そのリーマックスに助けられて今まで生きて来られたのですね?
でも、リーマックスはなぜあなたが病気だということがわかって現れたのでしょう?
病院のカルテでもこっそり調べたんでしょうか?」

志田はそうやって、インタビューの様子を録音した。
そしてそれを、不思議な出来事として週刊科学リサーチに載せた。
もちろん絢波婦人のことは仮名にして、どこまで信憑性があるかわからない情報ではあるが・・という但し書きつきで。

その記事を読み終わったリーマックスである私は週刊誌を陳列棚に戻した。
何十年も前のことだが、年齢からすると、これは絢波佳乃のことだと思った。
私は都内の小さなアパートに戻ると、自分の主脳を二つに分けて両足の方に下げて行った。
そして両足の副脳は両腕に両腕の副脳は頭部に移動した。
頭部に移動した二つの副脳は合体して新しい主脳となり生殖器も新しく開花した。
こうしてローテーションを繰り返して脳を休めないと脳の働きが悪くなってしまうのである。
また脳と生殖器は不分離の関係なので、主脳が二つに分かれるとき生殖器も雌雄に分かれて小さく折り畳まれ植物の種のように休眠するのだ。
そして私はまだ昼間だけれども、新しい主脳を形成する為にしばらく眠ることにするのだ。
目覚めるのは3日後になる。


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