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リーマックス
【SF 官能小説】

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ユウナ-6

刑事が取調室で私に言った。

「カレンとジュンという少女は医師によって検査を受けることを希望したそうだ。
その結果二人とも性交をした痕跡がないことがわかった。
従って未成年淫行罪ではなく、未成年に対する強制わいせつ罪に切り替える」

それからほどなくして、それも撤回された。

「二人の少女から合意の上でモーテルに入ったこと。
なんらわいせつ的な行為を強制されていないとの証言があった。
しかし・・・お前の存在や身分を証明するものは一切ない。
密入国の疑いがある。だから引き続き身柄を拘束する。」

更に時間がたって、担当刑事が青ざめた顔でやってきた。

「お前は何者だ?お前の指からとった指紋が・・指紋になっていない。
お前は本当に人間か?
人間ではないからMRIで調べろという一般人からの密告電話があったぞ。」

一般人ではない。『ミーレ・サリス』の連中が仕組んで、私の正体を暴こうとしているのだ。
そして私は警察によって病院の検査室に連れて行かれた。
暴れる私は取り押さえられMRIに入れられた。
その結果医師たちも警察も唖然としたのだ。
骨もなければ臓器も殆ど見当たらない。
それもその筈、私の体の骨格は擬似骨格でゼリー状の組織を固めて見せているだけなのだから。
そのとき、ちょうどタイミング良く彼らがやって来た。
医師に私が人間ではないという診断書を書くように催促した。
そして、私を害獣として処分すると言ったのだ。



彼らは国際害獣駆除委員会といういかがわしい肩書きを見せて、私の引渡しを要求した。

「処・・処分って、殺せば殺人になるじゃないですか」

刑事は驚いて男達に言った。
だが、男達は医師に無理矢理書かせた診断書を指さして笑った。

「人間でないものを処分しても殺人罪にはならない。
せいぜい犬や猫を殺すのと同じ器物破損罪くらいだろう。
もっともこいつには飼い主がいないから、それも該当しないがな」

だが、刑事もがんばって自分だけの判断で引き渡すことは出来ない、上の判断を仰がなければならない、と引渡しを拒否した。

「ふん。それも良いだろう。
だが、我々の委員会の力を見くびってもらっては困る。
直に上からのお達しとやらで、引き渡さざるを得なくなるからな。」

そういうと男達は去って行った。私は手錠をはめられ再び留置所に入れられた。


真夜中私は留置場の格子戸から抜け出た。
僅か5cmの間隔の隙間から抜け出すのは、いくら軟体動物の私でも大変な作業だった。大きく変形すると命のエネルギーをたくさん消費する。
また元通りの形になるのにも沢山のエネルギーがいる。
私はようやく警察署を抜け出して、車を拾い、マンションに戻ると待たせていたタクシーに料金を払った。
飛行機の切符は使えなかったし、パスポートも財布も警察に置いたままだ。
だが、ここにいては危ない。
私は車に乗ると兎に角家から離れることにした。
車を処分していなかったのは幸いだった。
けれども、私の車に追跡装置がついていたのだ。
腕の副脳がその電波発信の微弱な音を捉えた。
だが、そのときには、彼らの追跡が始まっていた。
私は発信機を見つけて壊したが、追っ手はもうそこまで迫っていた。
追っ手の車は2台で追って来た。
彼らは車をぶつけてきて私の車を道路の外に押し出した。
車は横転して林の中で止まった。
私は車から抜け出し林の中をよろよろと走った。
彼らも車から降りて追って来る。私は海の見える断崖の上にいた。
そして、そこから身を投げた。


私はどこかの海岸にいた。ぼんやりと海を眺めていた。
夜が明けていて子供たちの声が聞こえた。子供たちが私の方に近づいて来た。

「なにこれ?気持悪いなあ。大きなウミウシかな?それともクラゲかな?」
「もうほとんど動かないから死んでいるのかもしれないね。」
「こんな気持の悪い生き物初めて見たよ」

満潮が近づいて来た。私はまた海水に漬かって、今度こそは死んで跡形もなく消えて行くのかもしれない。
そのとき、私の心に語りかける声が聞こえた。

『リーマックスさん、今どこにいらっしゃるの?
あなたのお陰で私はやっと歩けるようになったわ。
今あなたを助けに行くから、待っていて下さいね。』
『ユウナさん、来てはいけない。もうすぐ私は死ぬ。
この姿をあなたには見せたくない。』
『それなら私の卵子をもう1個差し上げます。
今度はあなた自身の命に使って下さい。』
『ありがとう。でも、もう遅いのです。ありがとう。』

私の体は再び海水に包まれて、彼女の声も次第に聞き取ることが出来なくなった。



昼近くになって、一人の杖をついた女性が海岸にやって来た。
その横に年配の男性が並ぶようにして歩いて来た。

「この風景だわ。ちょうどあの灯台が見えていた。この景色を私に見せてくれたのよ。」
「ユウナさま、足元に流木があります。お気をつけて。」

運転手の言葉にユウナは足元を見た。
そして枯れ木のようにしからびたその物体を見た。ユウナは長い間それを見ていた。
目が曇って見えなくなるまで。

「枯れ木じゃない・・・これは、この世でたった一つだけあった尊い命の亡骸よ。
尾崎さんこれを車に運んでくれる?」
「はい・・捜していた物が見つかったのですね」

運転手の尾崎はカラカラに乾いた細長いものを手に取るとユウナと一緒に車の方に戻って行った。

灼熱の太陽は、砂浜を過酷なまでに照り付けて、二人の陰を足元に押し込んでいた。
         

                     (完)
  


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