THANK YOU!!-4
「鈴乃、何でそっち向いてんの?」
顔をのぞき込もうとしたが、すぐに拓斗はそれをかわす。
そして、一瞬だけ見えた表情に、ため息を付いた。
「・・足首叩いちゃったの謝る、ゴメン。だから、そんな怒んないで?」
そう、一瞬見えた時の表情は瑞稀には“怒っている”と捉えた。
だが、本当の表情は、“怒っている”のではなく・・
「え?あ、いや、怒ってないから謝るな。」
「でも、何か怒ってたように見えた」
「違う、俺は・・。」
そこまで言いかけて、口を閉ざした。
瑞稀に教えることに抵抗を感じたのだ。
“俺は・・ただ、やるせなかっただけ。”
そう、続けるつもりだった。
ズボンの石灰の汚れに気づいてなかったとはいえ、
女に膝まづかせ、石灰をはたいてもらった上に、煙を浴びさせてしまった。
そして、その時の瑞稀の涙目が、不覚にも“可愛い”と思ってしまった事に、
拓斗は自分がやるせず、嫌悪してしまった。
その感情が、表情に出てしまった。
「・・?俺は?」
「・・なんでもない、気にすんな」
不安げな顔をする瑞稀に、自分が感じた事実を告げる事ができるわけもなく・・。
拓斗は小さく笑って瑞稀の頭をガシガシと撫でた。
加減が出来ず、瑞稀はその撫で方のおかげで首を思い切り下に曲げる形になってしまう。
曲がった瞬間、瑞稀の首からグキッという鈍い音がした。
「ちょ、痛い痛い!」
「あ、悪い!」
瑞稀は痛さのあまり、拓斗の胸をビシバシ叩いて痛さを訴える。
叩かれた拓斗は慌てて手を離した。
開放された瑞稀は首をさすると、耐えられなくなって笑い出した。
「ふ、アハハハ!」
「!?・・や、八神・・?」
「ゴメ、でも、ちょっと、笑わせて・・」
お腹を抱えて大笑いする瑞稀に、戸惑いの表情を浮かべた拓斗が視界に入る。
瑞稀は、首を曲げられて頭がおかしくなったとかではない。
初めてだったのか。と思わせる位、人の頭を撫でることに慣れていないことを意味するであろう無茶苦茶な加減。
痛い。というと、慌てて手を離して必死な顔で謝る拓斗。
それらが、“可愛い”と思わせてしまった。
そして、そう思ってしまった自分と、未だに状況が分かってない拓斗に対して、
何故か可笑しくなってしまった。