なつらぶ! 12
腕利き達は悠長に部屋から出て階段で下に降りようとしているけど、そんなの待っていられない。
タンタンタンッ…と私も跳躍する。
重力による落下の衝撃を膝の屈伸だけで緩和し、スクッと立ち睨む。
繰亜りくはそんな私を待ち構えていたかのように、なつ姉を後ろに待機させながら中庭の真ん中にいた。
「つき…も認めてくれないの?」
「もちろんだよ、なつ姉」
その場所は私の夢の場所。よく分からない男に取られてたまるか。
「どう考えても私のほうが強いでしょ?繰亜りくもそう思うでしょ?」
「つき様」
「つきさっ…!?何さ?」
「サーバントとしてよろしく」
「……やっぱり泥棒だったね、あんた。フルボッコにしてやんよっ!」
全身の筋肉と骨が悲鳴をあげるほどの瞬発力で、繰亜りくに突進する。
右手を拳にし、突進によるスピードをのせてそのまま繰亜りくの顔を殴る。
はずだった拳は空を切った。
「(どうして!?)」
よろめく私の背中に激痛が走る。
「きゃ…!?」
気が付いたら三メートルほど吹っ飛ばされて倒れていた。
「っ……なん…で?」
背中が痛い。
とても痛い。
蹴られたのだろうか。
分からない。
「うっ…」
腰に手を当てて、やっと立ち上がる。
「なんで追撃してこないのよ…?」
「殴る理由が無いからな」
「ふん…私を吹っ飛ばしたくせにっ!」
「守る理由はあるからな」
「くそ…かっちょいいなぁっ…!」
背中の痛みを誤魔化しつつ繰亜りくを睨む。
ようやく腕利き達が集まってきた。
「私、ギャラリーがいないと盛り上がらないんだよねっ!」
虚勢を張りつつ突進する。同じように右手の拳で顔を殴りにいく。
きっと避けられる。
だから二段攻撃でいく。
右手はフェイクとして使い、わざと避けられる。
そして次に飛んでくるだろう蹴りに合わせて膝を当て、繰亜りくには悪いけど足の骨を骨折してもらう。
「………っ…!」
右手の拳は避けられる。
大丈夫、今回は見える。
私の背中を蹴らんとする足の動きがスローで見える。
その足に合わせて膝を……当てる!
「(タイミングバッチリ!)」
「見えてんぞ……」
「え……」
私の膝に当たるはずだった足は寸止めされ、代わりに私のみぞおちに鋭い一撃が入った。
「かはっ…!?」
倒れるな。
息が出来ない。
まるで肺が裏返っているかのように痛い。
でも倒れちゃいけない。
私の築きあげてきたものが壊れちゃう。
「……っ…は…は…ぁ…」
泣けてくる。
痛いのもあるけど、自分がまだこんなにも弱いことに泣けてくる。
「まだ…まだっ…くり…あ…りっ…!!」
ドンッ…と鈍い音がした。
私の意識はそこで途切れてしまったのだった。
「ふぅ……こんなもんか……」
倒れかかるつきの体を支える。
「つき……」
「悪い」
「ううん…護衛を頼んだのは私だから……」