『家族』 3
…ふと、眩しい光に目をあけた。…泣いてるの?ママが泣いていた。
「もう目を覚まさないんじゃないかと思ったわ。よかった…」
ママは頬を伝う涙を拭うことも忘れて、私の髪を、頬を撫でている。何度も何度も…。
傷つけられたはずの身体に痛みはなく、私は思わず辺りを見回した。
白い天井、白い壁、白いカーテン…弟が心配そうにこちらをみている…目が合うとちょっぴりおどおどしながら傍にきて、小さな小さな手で私の手をきゅっ、と握った。
何がどうなっているのか、夢を見ているのか、天国なの…?
ドアが開いた。
パパが…立っている。
私は身をすくめ、目を瞑った。 大きなあったかい手が私の頭のうえにおかれ、私が恐る恐る目を開けると…
パパが背中に隠していた物を私の前に差し出したの。それは、ナイフなんかじゃなくて。ちっとも恐いものなんかじゃなくて…。大きな、ウサギのぬいぐるみだった。
私はびっくりして顔を上げた。…みんな笑ってる。「マリアの目が覚めるのをずっとずっと待っていたのよ。」
白衣を纏った老人がにこにこと「お嬢ちゃんはね、長いこと眠っていたんだよ。もう、大丈夫だね」と言った。 私は3年前の日曜日、ひとりで留守番をしているときに意識を失い、そのまま今日まで眠り続けていた…と白衣の老人は言った。
しかし、私の頭にナイフを振り上げたパパの恐ろしい顔がよぎった。
衝動的に近くにあった花瓶をパパの頭に振り下ろした。
パパは倒れた。
パパの頭から赤い何かが溢れた。
パパ、ドウシタノ?
ママヲヨンデクル。
ママはなぜか私から逃げてく。
私がやったんじゃない。
わかってといったはずなのに。
何で手を出すの。
ガラスの破片がママの胸に飲み込まれてく。
これはママなんかじゃない。
怪物だ。
振り返ると弟がいた。
動けないの?助けてあげる。
何で首を持って助けてあげてるのに、震えてるの?
キモチイイ。ワタシハワルクナイ。
白衣の老人が私の腕に何かを射すと、目の前が黒くなって何も考えられなくなった…