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生霊
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生霊 2


それは去年の事だった。
先輩の家で不幸が続いた。

きっかけは先輩のお母さんの勤め先のスーパーで金庫から多額の売上金が盗み出された事だった。
金庫の鍵は事務所の、誰でも簡単に持って行ける場所にあった。
つまりその店に勤める全員が容疑者と言えた。
上の人間達は自分達の管理の悪さを棚に上げて犯人探しに躍起となった。
職場の雰囲気は最悪になった。
先輩のお母さんは次第に怒りっぽくなり、食卓では職場の愚痴が多くなっていった。

「…今にして思えばそれも悪魔の仕業だったのよ」
「はあ…それは、つまり、その…悪魔がお金を盗んだと…?」
「そうよ。我が家を破滅させるために…その第一歩としてね。悪魔は目星を付けた家庭を破滅に追いやるために、そういう一見関係無さそうな所から切り崩しにかかって来るの。あなたは知らないでしょうけど、お母さんは前はすっごく明るい人だったのよ。優しくていつも笑ってばかりだった…。それがたかが勤め先の雰囲気が悪くなっただけであんな鬼婆のように豹変してしまったんだもの…悪魔が取り憑いたとしか思えないわ」
「それ、職場の環境が悪くなったのがきっかけで更年期障害の症状が出…」
「人が話している時に割り込んで来ないでちょうだい」
「失礼しました…」
「話を続けるわよ」
「どうぞ…」

…それから悪い事が続いた。
今度はお父さんが仕事中に倒れ、調べてみたら直る見込みの無い進行性の病気だった。
不幸は先輩自身にも降りかかった。
部活動中に不注意から骨折し、高体連大会への出場を断念したのだった(この話は僕も小耳に挟んで知っていた)。
明らかに何かがおかしい。
運命の歯車が狂い始めている事に家族全員が気付き始めていた。

「…そんな時だったわ。私達が“あのお方”の存在を知ったのは…」
「あのお方…?」
ひょっとして毎晩先輩を悩ませていた生き霊の主が僕だと突き止めた人の事だろうか。
てゆうかこの流れからして間違い無くそうなんだろう。
先輩は話を続けた。

最初にその人の話を聞いたのは、先輩のお母さんの高校時代の同級生で、離婚してシングルマザーをしているという女性からだった。
高校時代、特に親しかったという訳でもなく、卒業してから何十年も会っていなかったが、先輩の家に不幸が続いているという噂を聞いて連絡してきたそうだ。
『それは全て悪魔の仕業に違いないわ!今すぐ悪魔を払わなきゃ駄目よ!』
そう言って彼女は“その人”の名を告げた。
“その人”に任せれば全て上手くいく…との事であった。
実際彼女も立て続けに不幸に見舞われていた所を“その人”によって救われ、今は幸福感に満ち満ちた日々を送っている…という。
最初、先輩のお母さんは半信半疑だった。
先輩と先輩のお父さんも“その人”の事を疑って、まともに取り合わなかった。
だがその元同級生は何度も何度も熱心に訴えて来た。
『私も最初は“あの人”の事を疑ってたのよ!でも実際に会って話してみて“この人は本物だ!”って確信したわ!』
『とにかくあなたも一度で良いから会ってみて!会うだけで良いから!』
…あまりにもしつこかったので、仕方なく一度“その人”と会って話を聞いてみる事にした。


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